トラットリアで2009年04月15日 09:52

学生の頃、はじめて海外旅行をしました。一ヶ月ほどで欧州を巡る学生向けのツアーで、体力任せに一気呵成に駆け抜ける旅でした。バブル前で円が安くて食費の工面が大変だったと記憶しています。

予備知識も持たずマナーも分らない日本の若者の集団がわいわいとやってきたのですから、迷惑をかけた事も多いかも知れません。それでもまだ日本の旅行者は少ない時代でしたから、それぞれの土地のやり方で受け入れてくれていたと思います。

その旅行でイタリアに行きました。スパゲッティはパスタの一種である事、パスタの調理法は地方によって異なる事、タバスコは置いてない事、水も有料である事など、その旅行で知りました。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。
確かベネツィアだったと思います。トラットリアでスパゲッティを注文した時「タバスコを下さい」と付け加えました。タバスコは置いていなくても頼めば出てくることを他店で経験していたからです。

店の主人は明らかに怒った顔で「タバスコ?」と言って奥に入って仕舞いました。私は主人の顔を見てようやく自分の無理解と無礼さに気づきました。それまでは「なぜタバスコを置いていないのか」に考えが及んでいなかったのですね。自分の浅はかさ、仲間に対する気まずさ、主人に対する申し訳なさ、、すっかり気持ちが沈んでしまいました。

すると主人が皿の中をスプーンでカチカチかき回せながらテーブルまでやってきて何か言いました。最後にニヤリと笑って置いたお皿には、刻んだチリペッパーと何かの香辛料を混ぜたオイルでした。それはとても美味しくて、はじめて味わうものでした。

それから10年以上が経ったころ、「プロ」の意味が少し分ったとき、「あぁ、そういうことだったのか」と彼の事が鮮明に思い浮かばれました。
彼は無知で失礼な若者の我侭を、特製のチリソースで叶えてくれたのですね。「タバスコなんかより、オレのチリソースの方が美味いぜ」と言っていたのかも知れません。

彼が私に与えてくれたものを、私も日々のデザインの中で贈って行きたいと思います。

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