「新しさ」2010年04月06日 23:59

大学時代、最も憧れて大好きだった音丸馦(おとまるかおる)先生が退官の時、「創新」をテーマにお話をして下さいました。
「創新」は、中国からの留学生がデザインについて表した言葉で、音丸先生がその言葉をご自身の求めてきたものそのもの、といって黒板に大きく書かれたのです。

音丸先生は人間国宝音丸耕堂師のご子息で漆工芸家です。彫漆の茶道具を拝見した時はとても感動しました。
恐れ多いながら、大胆で繊細、伝統を重んじながら軽妙で洒脱、といった印象を強く感じていました。
とはいえ視野の狭かった私は、伝統工芸に新しさを求めるということの意味を暫くは分かりませんでした。

先生は実体験を通してわかりやすく「新しい素材と組み合せて見る」「新しい技術を試して見る」ということを教えて下さいました。
一見ごくあたりまえのお話ですが、長く伝統工芸を伝えて来たお家柄ならではの深い達観を、後々感じるようになりました。

私たちは絶えず変化して行きますが、その変化が新しいのではなく、ものが新しくなって行くことが「新しい」ということで、ものの新しさの中に私たちは「新しい価値観」を見いだす、ということなのでしょう。
変わるようで変わらない、変わらないようで変わる私たちのどこを見据えて行けばいいのかを示唆しているように思います。

私はもったいなくも、卒業制作の重要な部分を音丸先生に作って(!)頂きました。
頭でっかちの学生の悪戦苦闘を見かねて、そっと手を差し伸べて下さったのです。とても人望の篤い先生です。
dmc.
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