ヒューマンエラー2011年09月29日 17:19

B737のスイッチ(運輸安全委員会制作)
学生の頃、人間工学の源流について学ぶ機会がありました。
人間工学として統合された学問は、「エルゴノミクス」「ヒューマンファクター」という大きな二つの流れがもとになっています。
前者は主として身体的な制約や特徴から効率的なサイズや素材、方法への示唆を捉えるもので、後者は人間のシステムとしての特性を考慮する設計思想です。

その源流は戦争兵器にあって、誤操作や非効率が戦果に直結すると考えられたことから、より使いやすい方法、間違えないシステムを追求したことに始まりました。

有名な対比として、第二次大戦において日本の戦闘機は性能の不足をパイロットの技量と精神によって補完しようとし、アメリカの戦闘機は(パイロットを失うと補充するのに膨大な時間と費用がかかるので)防御をまず重んじた、というのがあります。
開戦当初は日本の戦闘機が圧倒的に強かったのですが、ムスタングの登場でゼロ戦は抜き去られることになりました。
航空機を人を含めた一つのシステムとして捉える、という設計思想を感じとることが出来る逸話だと記憶しています。

アポロ計画では「フェイルセーフ」という設計思想が深化しました。機械は故障するものだと言う前提に立って、故障した時には必ず安全な状態となるように設計すると言うものです。例えばハンドルが壊れたら自然に真直ぐ進むようにする、窓ガラスのリベットがとれてもガラスが飛んで行かないよう内側から留める、といった仕組みですね。これを宇宙と言う極限状況でも安全が保てるよう徹底したのだと伝え聞きました。

概略をまとめますと「人は間違える」「機械は壊れる」という前提に立って、「自然に使える」「効率良く使える」方法を探るのが人間工学の基本と言うことになります。

さて、航空機はこのような設計思想を発達させた現場のひとつであり、現在もトップレベルでその思想を維持進化させている、と見ることが出来ます。航空機はハイジャック等の人為的な破壊も想定されますから、まさに想定外はない現場なのです。

それでも事故は起きるものなのですね。先日方向舵のトリムスイッチとコクピットのドアスイッチを間違えて、ほぼ背面飛行に近い状態(左131.7度)になり約1900mを急降下したというものです。(写真参照)

飛行姿勢の変化(動画・運輸安全委員会制作)
 http://www.mlit.go.jp/jtsb/video/JA16AN-movie1.wmv
 http://www.mlit.go.jp/jtsb/video/JA16AN-movie2.wmv

事故は幸い、誤操作した副操縦士のその手で回復させることができましたが、速度もGも制限を超え、空中分解や衝突がおきなかったのは偶然に過ぎないと厳しい口調で指摘されていました。

事故が起きたのはボーイング737-700型旅客機です。人間工学を発達させた直系のアメリカの航空機で、ヒューマンエラーによる重大な事態が起きてしまいました。
写真をご覧頂き、これは確かに間違えそうだと思われましたか?それとも間違いようがないと思われましたか?
ドアスイッチは以前はフットスイッチだったそうですが、ハイジャック防止の為あえてここに配置されるようになったそうです。

この事故は副操縦士の誤操作は確かに問題なのですが、誤認が生じた仕組みを探ることが大切ですね。誤認の仕組みが判ればそれを回避する工夫が出来ます。
もうひとつ、誤操作された時に重大な状態にならないような仕組みも工夫されることでしょう。
この事故がどのような形で次の設計に反映されるのか、とても興味深いです。
dmc.
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