映画「別離」2012年05月29日 23:59

映画「別離」のチラシ
第61回ベルリン国際映画祭で史上初3主要部門受賞など、90以上の映画賞を獲得したイラン映画、「別離」を観ました。
(これより内容に触れますので、観賞予定の方はご注意下さい。)

冒頭、将来を案じ国外に一人娘を連れて行きたい妻と痴呆の父を置いて行けない夫との離婚調停(家裁)の場面から始まります。妻は出て行き、家政婦が来、事件が起こり、夫は訴えられ、妻は離別を避けるため示談を画策し、夫は結局自尊心の殻から出られず示談目前にしてそれを壊してしまう。。そして子供がどちらとともに生きるかを調停で答えるラストシーンまで、張りつめた空気は緩む事なく突き進みました。
多用されたロングカットのハンディカメラがドキュメンタリーのようなリアリティを付加していて、緊迫感を増しています。

女性のスカーフ(チャードル)、老人であれ他人の男性を介護する事の宗教的葛藤、コーランに誓うことの重さなど、イスラームの文化背景が物語の必然性に深く関わっています。しかしそれらの事を知らなくても共感し最後まで目が離せない描写がこの映画の凄さでもあります。
(公式サイトには観賞の助けとして文化的背景を開設したページがあります。)

背景にイランの社会の問題点を描いてはいますが、それが即ちイスラームの未開さであるという短絡的な見方をすることはできません。(そんな方はいないでしょうけれど)
家族への愛情、守りたいもの、保身のための小さな嘘、些細ではあっても譲れないもの、自尊心を越えたものへの畏怖、正直であることの凄さ、、登場人物全てが聖人でも悪人でもなく人間として描かれています。

ラストシーンで、裁判官に「どちらと住むか決めましたか?」と尋ねられた子供は「はい。」とだけ答え、どちらを選んだかは描かれず、法廷の外で待つ夫婦のロングショットのまま映画は終わります。言わない事で繰返し広がる余韻。これも凄い描写だなぁ。

他人から見たら些細な事が不幸を不可避にさせているという厳しさ、観客の目をそこに向けさせる描写力、、いわゆるハッピーエンドではありませんのでお薦めはしませんけれど、観るべきものを観た、と感じる映画です。

映画「別離」
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