ダメマシンクリニック61【ICカード:表示性干渉障害(飾あたり)】 ― 2017年02月03日 09:45
みなさまおはようございます!
今日は節分ですね。個人的には「渡辺さんは豆まきしなくて良い。なぜなら、鬼が恐れているから。」というお話を伺い朝から衝撃が走りました。
さて、今週のダメマシンクリニックはこちら、先日ネットで「デザインの敗北」と話題になっていたICカードです。
ダメマシンクリニック61【ICカード】
こちらのICカードのデザインが話題になっていました。新幹線の改札をチケットレスで通れるものですね。私も利用していましたので「間違える方がいるだろうな、、」と思っておりました。それにしても「敗北」とは、なかなかの言われようですねぇ。
解説するまでもありませんが、カードリーダーに挿入する方向(左)とは逆向き(右)のグラフィックが大きく、反対方向への誘導が強くなっていますね。
ここで、他のカードも見てみますと、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、ポイントカードなど手持ちのものは全て「左上に挿入方向の誘導表示」がありました。
これは、(挿入ではなく)手でスライドさせるタイプのカードリーダーを使う際に、右手で持てばそのまま正しい動作ができるような配置ですね。ルール化されているかどうかはわかりません(調べていません)が、自然なことでしょう。
また、写真(使い古しの汚いものでゴメンナサイ)は、誘導表示が「←」や「<」ではなく、絵になっているものです。このくらいの遊びは許容されているのですね。
ちなみに磁気部分のないETCカードも同じ位置に同じ方向でついていました。
これまでの慣例を守りつつ、誘導とグラフィックと相反しないようにできたら良かったのでしょう。
【診断】
メインのグラフィックが持ちあわせた機能的な意味が、本来の誘導表示と干渉してしまったことが原因です。「表示性干渉障害(飾あたり)」と診断します。
【処方】
では、処方です。
以下の様な治療がよいでしょう。
なお、ユーザーが個別に行う応急処置(マジックで大きく矢印を書くなど)は割愛します。
処方01:慣例を守った治療
誘導表示とグラフィックを以下の様にします。
・誘導表示を大きく、コントラストを上げる。
・メインのグラフィックは許容される範囲で「模様化」する。
ここでは、メインのグラフィックを銀箔にしました。メタリックの質感は高級感の演出とともに目を引きますが、一方で形態の意味性(ここでは方向性と誘導性)を弱める効果が期待できます。一般に、「模様」と感じられるグラフィックの意味性は弱くなります。
また、左上の誘導表示はメイングラフィックを反転させたものにしました。誘導表示を強くしますと必然的にアイキャッチとして機能しますので、ここはぜひ工夫をしたいところです。新幹線をデザインしても面白いかもしれませんね。
さて、、だがしかし、であります。
もう少し踏み込んでみましょう。
処方02:使用状況を再考した治療
配置と誘導表示を以下の様にします。
・カードの挿入方向をメイングラフィックの方向(右)にあわせる。
・誘導表示を右下に移動。
明瞭なメイングラフィックの機能性を活かして、その方向に差し込むようにカードを180度回転させました。これは破綻がなく自然なデザインといえます。
しかし先ほど確認した慣例と反します。それはよいのでしょうか?
以下の様に考えました。
・慣例が活かされる「スライドタイプのリーダー」はレジやハンディ決済などに多く見られ、ユーザーよりサービス提供者が使う場合が圧倒的に多い。
・不特定多数を対象としている一般の店舗では、色々な種類のカードを扱う必要があるため、慣例に従わないカードがあると操作に支障が出る。
・一方、このカードは非接触が主な使い方で、カードリーダーを用いる場合でもユーザーが操作を行う。
・ユーザーにとっては慣例に従っていることより、このカードが使いやすいことが大切である。
・また、サービス提供者がカードリーダーを使う場合でも、サービス提供者のカードなので、比較的短期間に操作に慣れ親しむことができる。
ざっくりと言いますと、プロが扱う場所では慣例に従うべきだが、特定ユーザー向けなら慣例に反する最適化もありうる、という考え方ですね。これは、このカードが閉鎖的なシステムだから成立するのであり、あくまで部分最適の対処である、と申し添えておきます。
そういえば、90年代後半に実際にあった銀行のカードなのですが、「左に刺すと普通口座、右に刺すとローン口座」というものがありました。恐ろしいですね(苦笑
当時から問題視されていましたのであっという間になくなってしまいました。
ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!
No.: 61
対象:新幹線専用の非接触ICカード
設置場所:日本中部
報告者:有限会社ディーエムシー
報告日:2017.2.3
症例:表示性干渉障害(飾あたり)
ダメ度:×(治療が望ましい)
治療方針:皮膚科「表示整理」
外科「再配置」
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「ダメマシン」でお困りの方へ
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上のフェイスブックページに以下の内容を投稿して下さい。投稿順に診断、処方箋をお応えいたします。現場でお困りの方は無料で何度でもお応えします。どしどしご連絡下さい!
・明瞭な写真または動画(複数歓迎)
・設置場所とマシンの目的
・困っていること・症状(出来るだけ具体的に)
・テプラなどの対処部分の写真と説明
※プロの方へ
このページの内容を参考にして設計されることは大歓迎です。引用も問題ありません。(ただし、法的な責任は負いません。また、できれば一言「参考にしました」と言って貰えると嬉しいです。)
個別にデザインを相談したい場合はご連絡下さい。最優先で対処させて頂きます。
ダメマシンクリニック62【洗面台:配置性干渉障害】 ― 2017年02月10日 10:10
みなさまおはようございます!
横浜は朝から強い風が吹き、昨日ぱらついた雪の名残をすっかり飛ばしてしまいました。これから少しづつ暖かくなっていくのでしょうね。
さて、今週のダメマシンクリニックはこちら、都内のパーキングエリアに設置された洗面台です。
ダメマシンクリニック62【洗面台】
二台並んだ洗面台の左の方に追加の表示がされていますね。
詳しく見て見ましょう。
1:注意書(忘れ物)
2:説明書(手動水栓の操作方法)
1の「忘れ物注意」は、以前にもありましたがトイレで時々見かけますね。
2の説明書は、水栓の使用方法ですが、わざわざ説明する必要があるのだろうか、と不自然な印象もあります。
ここで、(写真が見切れて申し訳ないのですが)右側の洗面台を見てみますと、説明書がありません。こちらは自動水栓なのですね。また、石鹸液は左右とも自動で出るタイプです。
外観も機能もよく似たもの同士が並んでいる中ですので、手を触れる必要があるもの(手動水栓)に説明を書いた、ということでしょう。
【診断】
使用法が異なるもの同士が隣接したことにより、使用方法のイメージ(アフォーダンス)が干渉してしまったことが原因です。「配置性干渉障害」と診断します。
【処方】
では、処方です。
現状の応急処置でも利用できますが、ダメ出しによって損なわれている空間の簡潔さに配慮した処方をします。
処方01:表示による応急処置
表示を以下の様にします。
・「手動水栓」の説明をとる。
・「自動水栓」に追加表示をする。
・忘れ物の注意書をとる。
一般的には、普及して50年以上経ている自働ドアでも「自動」の表示がありますから、自動水栓、手動水栓を個別にみれば、表示が必要なものは自動の方です。したがって、自動の方に表記をする方が普遍的で自然だといえます。
また、ここは設備も整い、管理が行き届いていました。このような目的が明確で簡潔な空間では、誘導がなくても利用者は迷うことなく利用することができます。
また、整理された空間の追加情報はむしろノイズとなってしまう事も多いのですね。ノイズというのは「感情的に」処理されてしまい、意味が伝わりにくいものです。これは逆効果です。
「忘れ物注意」は親切ではありますが、ここでは空間の簡潔さを尊重して控えておく方が良いでしょう。
ところで、「木の葉を隠すなら森の中」と言いますが、ダメ出しによって返って伝えたい情報が埋もれてしまう場面を多々見かけます。公共空間はもっと文字に頼らず伝える工夫が必要でしょう。
ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!
No.: 62
対象:洗面台
設置場所:都内のパーキングエリア
報告者:有限会社ディーエムシー
報告日:2017.2.10
症例:配置性干渉障害
ダメ度:-(応急処置で対応可)
治療方針:追加表示
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・困っていること・症状(出来るだけ具体的に)
・テプラなどの対処部分の写真と説明
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ダメマシンクリニック63【折りたたみドア:誤形および干渉障害】 ― 2017年02月24日 10:10
みなさまおはようございます!
もう先週のことですが、春一番が吹きましたね。今年も様々なものを吹き飛ばしながら、ごうごうと春がやってきております。何時の頃からか嵐の季節となりましたが、それでも春はやはり気分がいいです。
そして今日は初の「プレミアムフライデー」。乗せられて浮かれてみるのもいいかも、なんて。
さて、今週のダメマシンクリニックはこちら、都内ホテルのラウンジに設置されたトイレの折り畳み式のドアです。現場に居合わせたKさんから「これ、絶対間違うよ」とご指摘頂きました。
Kさん、ありがとうございます!
ダメマシンクリニック63【折りたたみドア】
トイレの内側からみた所です。ドアに縦長のバーが付けられていますね。写真だとわかりづらいのですが、上から見た時に「くの字」に折れるようにして開閉するタイプで、内側からは押し開ける必要があります。
縦長のバーは一般的に「引く」操作を誘引します。
形態がもつ操作を促す情報を「アフォーダンス」と呼びますが、このバーのアフォーダンス(引く操作の誘引)とも正しい操作(押す)が正反対ですね。
設置者もその点は把握していた様で、正しい操作方法の表示が付加されています。
もうお分かりですよね。バーの形が操作方法に合いません。
【診断】
操作にかかわる形態そのものに誤りがありますので「誤形」と診断します。
【処方】
では、処方です。
誤形に伴うアフォーダンスの間違いは、表示で解決することが殆ど出来ません。それは、「人は形態や状態の情報を優先する」からです。
みなさま、周囲に取説(取り扱い説明書)を読まない方が沢山いらっしゃいませんか?何か新しいものを手に入れた時に、そのものをまず触り、使い、どうしても困った時に読む、という方が圧倒的に多いのではないでしょうか?粗っぽく言い切ってしまえば「文字を読むのは最後の手段」ですから。(さらに申しますと、それでも読まない方もとても多いのです。)
この空間に話を戻しますと、目の前に操作を誘引する形態(ここでは「バー」)があれば、まずその誘引に従うのが自然なのですね。
ですから、操作の前に文字情報を読み、正しく理解する利用者さんは極めて少数です。さらに、文字を読んだ方も、アフォーダンスとの干渉により、スムーズな操作は困難でしょう。
従いまして、今回は表示による応急処置はせず、治療を施しましょう。
処方01:外科治療
以下の様にします。
・バーを取り去り、縦長の金属板を貼る。
・表示を取る。
ドアに貼られた縦長の板は「押す」アフォーダンスを持っています。トイレ内ですので衛生面を考慮して金属製がよいでしょう。
あわせて表示を取ります。形態からの情報が必要充分な場合、表示はない方がノイズがなく、よりクリアに伝わります。
さて、今月は「干渉」の症例を3つご紹介しました。この「干渉」について理解を深めますと、不必要な表示を減らすことが出来ると思います。施工の際はぜひご勘案ください。
ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!
No.: 63
対象:トイレの折りたたみドア
設置場所:都内 ホテルラウンジ
報告者:有限会社ディーエムシー
報告日:2017.2.24
症例:誤形および干渉障害
ダメ度:××(応急処置不可)
応急処置:整形(外科)
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・困っていること・症状(出来るだけ具体的に)
・テプラなどの対処部分の写真と説明
※プロの方へ
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