ダメマシンクリニック74【イコカのチャージマシン:表示失調および軽度の誤形】2017年06月25日 15:00

みなさま
こんばんは!

金曜日に更新の予定でしたが所用があって今日になってしまいました。楽しみにして下さっていた方にお詫び申し上げます。

さて、今週のダメマシンクリニックはこちら、大阪のJRの駅で見かけたイコカのチャージマシンです

ダメマシンクリニック74【イコカのチャージマシン】

74 イコカのチャージマシン01
JR京橋駅の改札前に設置してあるイコカのチャージマシン、以前から気になっておりました。いつも足早に通り過ぎてしまうのですが、今回初めて立ち止まって拝見しました。

74 イコカのチャージマシン02
1:表示(使用可能カード)
2:誘導(カード)
3:表示(カード挿入口)
4:注意書(つり札)
5:注意書(紙幣の入れ方)
6:注意書(旧札の使用不可)
1の表示は、下のLEDに干渉していることから後から追加されたものと推察します。
他はカードの扱い方(2〜3)と紙幣に関する注意書(4〜6)に2分されますね。

このチャージマシンは経年を感じさせる外装、押しボタン式のインターフェイス、「旧札」の表示から、イコカの導入と同時期または数年以内に設置されたものと推察します。イコカは2003年、新札は2004年とのことですので、2004〜5年頃のものでしょうかね。
そして、この頃の機器やサービスを思い起こせば、ダメ出しの背景が見えてきます。一つづつ見て行きましょう。

まず自動販売機とATMです

当時、高額紙幣が扱える自動販売機では珍しかったはずです。紙幣が使えても千円札のみで、硬貨しか使えない自販機もまだまだ現役でした。
銀行のATMでは高額紙幣が扱えましたが、札束を一度に扱える(紙幣投入口が大きく開く)タイプが、店舗内の少し狭まった場所に設置されているのが普通でした。
また、コンビニATMも普及していましたが、設置場所には今見かけるものよりも慎重な設置基準でしたよね。(一番奥にあったり、壁が設けてあったり、など。)

つまり、この頃(2004〜5年頃)は、このチャージマシンのようなオープンな環境で高額紙幣を扱う自動機器を扱うことは希でした。
例えば一万円札しか持っていない利用者が「2,000円だけチャージしたい」という時、「このマシンはおつりを出すことが出来るのか?」と疑問に思っても不思議ではなかったのですね。
そして、複数の紙幣を挿入するという行為も他にはありませんでした。
したがって、紙幣に関する注意書は、設置当時においてはとても有用だったと推察できます。

次に「カード」の扱い方です。

非接触カードの普及期ではありますが、プロトタイプの実験も良好で「タッチ」という動作イメージは充分に周知されていました。しかし、交通系の電子マネーは「おサイフケータイ」とともに2004年頃からありましたが、それを利用できるのは一部の売店やコンビニに限られていました。(ちなみに、バスには2007年頃から普及していきます。このころから、「電車に乗る」以外の利用が普及していったようです。)
したがって、この頃の「タッチ」は「改札を通る時」の特別な行為で、カードの「非接触性」が充分理解されているとは言えませんでした。

ここで、このマシンを見てみますと、カードは「立て掛ける」ようになっています。突出させた円形の台に赤い矢印で誘導しているデザインからは、非接触の特徴を示す新しい体験を提供する」という意気込みが感じられます。
しかし、「立て掛ける」という行為は他に例がなく、どのように振る舞うべきか、迷う利用者さんは少なくなかったことでしょう。「挿入口」という表示からは、「立て掛ける」より「入れる」方が、「カードにふさわしい行為」という認識があったことが伺えます。


【診断】

高額紙幣とつり札の扱いおよび非接触カードの扱いにおいて、利用者の認識とのズレがあったことが根本原因です。症状としては、紙幣に関しては「表示失調」と診断します。

カードについては、誘導したい行為(センサーの近くにカードを静止させる)と形状のシグニフィア(行為を誘発する形状のこと。アフォーダンスとも。)にややズレがありましたので「軽度の誤形」と診断します。


【処方】

では、処方です。
一般に、誤形に伴うシグニフィアの間違いは、表示で解決することが殆ど出来ません。それは、「人は形態や状態の情報を優先する」からです。ですので根本的にはカードを置かせる形を直す必要があるでしょう。

しかし、経年による「利用者の認識の変化」を考慮しますと、「利用者がここにカードを置く」ことはある程度一般化されたと考えてもよいでしょう。(これはこのマシンのダメ出しによる周知ではなく、非接触カードを利用する場面が多様化したためです。)

従いまして、応急処置は現状の追加表示のままとします。
今回は、「新しい方法(ここではカードの置かせ方)が受け入れられるようにするにはどうしたらよいか」という重要なポイントがありますので、当時の環境にさかのぼって可能であった治療を処方したいと思います。

処方01:応急処置
現状の追加表示のまま。
ただし設備刷新時に同等のマシンが設置された場合は、表示は最小限にとどめる。


処方02:メーカーによる治療(センサー部のみ)
当時(2004〜5年頃)の環境を考慮して、以下の様にします。
・センサーは水平にして、物を置かせる形(受け皿)とする。
正面からみえる位置に誘導を表示する。
・「ここに置く」と文字で明快に行為を指示する。

74 イコカのチャージマシン03

74 イコカのチャージマシン04
この形は「置くこと」が明快です。誘導する行為が明確であれば、そこに戸惑いは生まれにくいものです。
ただし、「台に置くことが自然」だったとは言えません。この行為もまた「他に例のない行為」でした。「立て掛ける」も「置く」も、どちらも不自然ではありました。
しかし、普及に伴って自然になっていくのはどちらか、という観点で見れば「置く」方が優位であることは、当時関わった方なら言えるのではないでしょうか。

なお、既に普及していた「おサイフケータイ」を考慮して図に加えていますが、設置のタイミングによっては不可だったかもしれません。



ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!

No.74
対象:イコカのチャージマシン
設置場所:JR京橋駅 改札外
報告者:有限会社ディーエムシー
報告日:2017.6.25
症例:表示失調および軽度の誤形
ダメ度:×(応急処置可)
応急処置:追加表示
治療:整形(外科)



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