ダメマシンクリニック02【コンビニコーヒーマシン:多重コミュニケーション不全】2015年11月20日 16:40

ダメマシンクリニック、次の症例はこちらです。
C.S.さんからご投稿頂きました、コンビニエンスストアのコーヒーマシンです。
Cさん、ありがとうございます!

投稿内容はこちら(写真とも)
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02 コンビニコーヒーマシン 01

02 コンビニコーヒーマシン 02

【コーヒーマシン】

ダメマシンクリニックさま、こんにちは。

会社そばのコンビニのコーヒーマシンが
迷走しています。
表示がころころ変わるのですが
常にいまいちです。

ホットのレギュラーを飲みたいのですが
アイスコーヒーについてのふきだしが
ボタンを押すのを躊躇させます。
カップを置いたあとに迷っていると
タイムアウトでボタンが作動しません。
(もういちどカップを置き直す)

ゴミ箱まわりのテプラもいまいちです。

処方よろしくおねがいします。

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こちらのマシン、2013年に登場した際、ほとんどのお店でテプラ等を使って「ダメ出し」されていたと記憶しておりまして、一度はダメ出しをご覧になったことがある方も多いことでしょう。
写真では見切れていますが、下にカップを置き、ホット、アイスともライトが点灯した状態です


ダメマシン02【コンビニコーヒーマシン

02 コンビニコーヒーマシン 03
ゴミ箱周りは置いておきまして、マシン本体の方を詳しく見て見ましょう。
追加の表示は5種類、18箇所に貼られています。
1〜2:コーヒーの買い方についてのポップ
3:ボタン周囲にホットかアイスかを表す色の輪
4:英語表記のみだった文字を補完する日本語表記
5:追加メニュー(アイスカフェラテ)

02 コンビニコーヒーマシン 04
操作部周りを拡大して見ます。
4の日本語表記は、お店が用意したモノではないようです。他店を確認したところ同じものと思われるシールが貼ってありました。(2013年時点ではこのシールがないことも確認済み)恐らく、判りづらいとの声を受けての、統一された対処なのでしょう。

しかし、この狭い範囲に沢山の手が入っていますね。混乱の根深さを思わせます。

まず、目に付きやすい大きなもの(=遠くからも見える)、1〜2のポップ、5の追加メニューについて見て行きましょう。

02 コンビニコーヒーマシン 05

02 コンビニコーヒーマシン 07
操作系はホットが上、アイスが下ですが、ポップの位置が逆になっていることでミスリードしているようです。
また、追加メニューの位置は良さそうですが、この距離感からは指示内容が不明瞭です。

02 コンビニコーヒーマシン 06
操作部によって見ますと、「R」「L」が左右に並んでいます。一般的な日本人ならこの英文字の組み合わせからは「左右」を思い浮かべるかもしれませんね。(さらに左右なら「L」「R」となり逆になっています。)
「レギュラー=R」「ラージ=L」という連想は、英語にかなり親しみがある方でないと難しそうです。

また、「R」「L」がコーヒーのサイズを指していることを、この位置関係からは感じ取りにくいと推察します。


【診断】

重層的に表示系と操作系が食い違いを起こしていますので「多重コミュニケーション不全」と診断とます。


【処方】

では、処方です。
表示と操作を関連付けることを計画します。

処方01:大きな表示の応急処置
応急処置(ポップ)では、以下の様にするのがよいでしょう。
左上にホット右下にアイスのポップを配置する。
吹き出しの先端はそれぞれの項目の上端を指示するようにする。
・追加メニューのシールを直す。(今症例では先端が剥がれていました。)

02 コンビニコーヒーマシン 08
ポップだけを修正した案です。

02 コンビニコーヒーマシン 09
貼る位置を修正するだけの対処ですが、混乱を幾分かは軽減させられそうです。

しかしこの処置は、このポップが必要な時の対処ではありません
時系列に沿って考えて見ましょう。

02 コンビニコーヒーマシン 10
ポップに表された内容は「清算前に必要な情報」です。
その情報が、清算後に関わる操作系に重なることで、さらに混乱を誘っています。

処方02:追加表示の応急処置
追加表示全体に及ぶ応急処置では、以下の様にするのがよいでしょう。
清算前情報(ポップ)は遠くから見えやすい上部に切り離す。
文字位置を揃え、日本語表記を見やすくする。
アイキャッチを描き加えて、「ホット」「アイス」の識別性を高める

02 コンビニコーヒーマシン 11
ポップの位置を変え、表示を追加した案です。

02 コンビニコーヒーマシン 12

02 コンビニコーヒーマシン 13
「R(普通)」は「S(小)」に変更したいところですが、曲面ボタン上にある「R」を描き変えるのは(テプラやポップ等の一般的な技量では)困難ですし、商品にも「R」とあることから、そこは手を付けませんでした。
そのかわり、この吹き出しを描ける方なら、アイキャッチを、上の例よりも断然魅力的に描けると思いますので、ぜひチャレンジして見て下さい。


処方03:
治療
根本的な改善には(メーカーによる)以下の処置が有効でしょう。
表示計画による改良と、オペレーション全体から操作系を改善する方法です。
1)表示計画による方法:マシン、商品ともに「R(普通)」を「S(小)」に変更し、日本語表記をメインに大きく入れる。
2)オペレーション全体から操作系をデザイン意思決定操作をそれぞれ一度に集約させる。

2について詳しくお話ししましょう。
そもそも、このコーヒーマシンはなぜ使いにくいと感じてしまうのでしょうか?

02 コンビニコーヒーマシン 14
ドリンクバー普及して20年以上経ったそうですが、沢山の統一されていないマシンを使いこなす方と、コンビニで困っている方にそれ程大きな差はないと推察します。同じ人が、同じようなマシンを操作するのに、一方では問題が少なく一方ではクレームが多い、、。もちろん、慣れによるものが大きいはずですが、それだけなのでしょうか、、。
もし決定的な違いがあるとしたら、ドリンクバーとコンビニの決定的な違いは何でしょう?

レストランのドリンクバーは「何杯でもOK」で「清算は全ての最後に行う」ことになてっいます。これは何を飲むかはいつでも変更出来るかつ間違えることによる不利益がない状態です。
これは負担を感じる事無く学ぶことが出来る状態、と言えます。間違えちゃったら入れ直せばいいんですからね。間違えることで次から正しく淹れられる可能性は飛躍的に上がります。(もったいないからと間違えたものを飲んだとしても、その事を負担に感じる割合は少ないと思われます。)

02 コンビニコーヒーマシン 15
一方、コンビニのコーヒーマシンは飲むものを選び、お金を払い、それを間違いなく機械に命じる必要があります。お金を払った後に変更はできず、機械に正しく命じなければ欲しいモノが得られないのです。
一般的に、お金を払うことが一区切りになり、その時点での短期記憶の中身はリセットされます。しかしコンビニではお金を払った後も、(大袈裟ないい方ではありますけれど)「自分は何を飲むのか」という意識を持ち続ける、もしくはその決断を再度しなければなりません。これは無意識に緊張を強いることになります。緊張が増した状態では操作エラーが増えることが判っています。
つまり、エラー率の高い緊張が続く状態で、正しく操作しなければ不利益を蒙る、という状況を招いてしまっているのですね。


オペレーション全体から操作系をデザイン

そこで、以下の様なオペレーションを考えて見ます。
意思決定は一度で済ます。(購入の際の一度)
操作は単純化する。

02 コンビニコーヒーマシン 16
マシンはボタン一つです。
自動で購入したメニューがドリップされます。

02 コンビニコーヒーマシン 17
ホットの小が作られているところです。

02 コンビニコーヒーマシン 18
上部の液晶(現在ほとんど認識されている様子が伺えていませんが、せっかくなので活用します)に「購入したメニュー」を表示させます。
ボタンは「操作を受け付けたこと」と「正しく動作していること」を示すために、メニューに合わせた色のイルミネーションを付けます。

このオペレーションでは「購入商品が何かをマシンに伝える仕組み」が必用です。
例えば、、
・購入したカップにタグがあり、それをマシンがセンシングしてメニューを判断
・さらに、レジから「購入済」と「メニュー」の情報が連動する。

このオペレーションでは、意思決定は一度(商品を選びや金を支払うまで)であり、あとは唯一の操作を実行(カップをセットしてドリップボタンを押す)すればよい、となります。

また、このシステムでは以下の効果も期待出来ます。
・故意の誤操作(Rを購入してLを押すなど)や未購入での操作を防ぐ。
・メニューが増えてもシステムのソフトウエアだけで対応が可能。

なお、既存のシステムが、、
・専用マシンであること。
・蓋と連動したセンサーが働いていること。
・レジを含めて比較的早い周期で装置が刷新されること。
などから、この案は十分に実現可能なのでは、、と考えます。

最後に、ゴミ箱まわりです。

02 コンビニコーヒーマシン 19
立ち位置から見やすい位置に、注意色で入れる方法はどうでしょう。
ただし、持ち込みゴミを禁じるのに表示だけでは不十分かもしれませんね・・。

ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!

No.02
対象:コンビニコーヒーマシン
設置場所:首都圏コンビニエンスストア
報告者:C.S.さん
報告日:2015.11.17
症例:多重コミュニケーション不全
ダメ度:××××(マシン単体では処置し切れない)
応急処置:ポップ位置修正
治療方針:外科「センサー追加/操作系再考/表示系再考」
     内科「システム連携」
     皮膚科「表示計画再考」



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・設置場所とマシンの目的 
・困っていること・症状(出来るだけ具体的に) 
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