ダメマシンクリニック83【飛行機内のエンターテイメント(IFE):自社中毒(疑い)による誤選および配置性表示性干渉障害】2018年11月28日 22:23

みなさまこんばんは!

少し前になりますが、「パソコンが使えないサイバーセキュリティ戦略担当大臣」が海外まで配信され話題になりましたね。一度挑戦したけれどダメだった、と。「でもスマホ(スマートフォン)は使えますよ」という反論も苦笑をかっていました。しかしこの発言、UI的には興味深いものがあります。

ーーーパソコンは使えないけどスマホは使える。
年代を問わず時々耳にしますから、情報機器のUIはスマホのメンタルモデルをベースに考えた方が自然だといえそうです。(2018年頃の一般論としてですけれど)

さて、今週のダメマシンクリニックはY.U.さんからご投稿頂きました、ANAの機内エンターテイメント(IFE)です。
Yさん、ありがとうございます!

投稿内容はこちら(写真とも・後半に括弧内数字を筆者追記の上掲載)
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83 機内エンターテイメント01

83 機内エンターテイメント02

83 機内エンターテイメント03

(以上がご投稿頂いた写真です。)
(以下に括弧内数字を追記したご投稿コメントです。)

今どきの飛行機 凄いなぁ 全席背もたれに画面ついてる。
テレビ、ビデオ、雑誌、機外カメラ、いろいろ見れる。
ただ操作方法がすごくわかりにくい。
ダメマシンクリニックに訴えたる。

83 機内エンターテイメント04
このボタンの意味わからんですよねえ。
まず取り出しボタン(1)押そうとしたら、すぐよこのiマーク(2)押してしまって、CAさんが飛んできた。

83 機内エンターテイメント05
それと人のマーク(3)と人のバッテンマーク(4)こんどは何が起こるのか怖くて押せなかった。周りをみても、これ使ってる人は1人もおらず...わかりにくいマシンはダーーーメ! 

(質問:タッチでも使えますか?)
タッチも使えるのですが、リモコンよりもさらにわかりません。 リモコンの使用方法は出てくるのですが、上から2番目の四角いボタン(5)がタッチパッドのようになっていて、指で触るとカーソルが動くということだけ説明されていて、他のボタンの説明はありません。 

83 機内エンターテイメント06
カーソルで項目を選ぶことはできますが、たとえば雑誌を選んで開いたら、ページを繰ることはわかります。ところが文字が見えない。拡大鏡のボタンで拡大したときに上下の↑(6)を出すのにダブルクリックしなければいけないのですが、その説明もなく..というように、いろいろ試行錯誤してやっと操れるようになるのにしばらくかかりました。

パソコンやタブレットになじみのある私でも、かなり迷うのですから、あまり触ったことのない人は途中であきらめてしまうでしょうね。
CAさん呼んで説明してもらうわけにもいかないし... すべてタッチパネルで完結するようにしたほうがむしろいいかもしれません。
リクライニングを倒すと、僕でもタッチパネルに手が届かないんです。しかしリモコン盗まれても困るから太い線で繋がれてて... パネルが前に出れば良いのでしょうが、壊れやすかったりコストかかったりで、そこはしかたないんでしょうね。
おそらく機能を欲張り過ぎたのだと思います。テレビとビデオくらいにしとけばボタン少なくて済むのにね。
あと、このリモコンの人のマークって何なのでしょうね?バッテンしてあるのもあるし... 怖くて触れない 実はリモコンの裏面にゲームのコントローラーみたいなボタンもありました。でも、使い方わからず。

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ご自身も「なじみのある」と書かれてらっしゃいますが、Yさんは普段から複雑な機器操作をなさいます。そのYさんをしてここまで困惑させるとは、、早速診てまいりましよう。


ダメマシンクリニック83【飛行機内のエンターテイメント(IFE)】

83 機内エンターテイメント07
外観からは画面はタッチUIがベースで、リモコンでも操作できるようになっているようです。複雑さの元は言うまでもなく、この二種類のUIが併存していることでしょう。

細部をみて行きましょう。

83 機内エンターテイメント08
画面上のタッチUIは左から、、
[星(用途不明1)・吹出し(不明2)・音量・輝度]・・・コンテンツや装置に関するもの
[読書灯]・・・手元用照明のスイッチ
[人型]・・・グラスを載せたトレーを持つ姿からサービスの呼出しと推察
[電源]・・・アイコンは電源ですがここでは画面のオンオフと推察 
この装置以外の操作(読書灯、呼出し)がもアイコンボタンになっています。これは「この画面で全て出来る」ことを暗示します。

一方リモコンは左(上)から、、
[i]・・・インフォメーションと推察しますが挙動は不明
[カーソル・音量]・・・コンテンツや画面に関するもの
[読書灯]・・・手元用照明のスイッチ
[人型]・・・CA呼び出しボタンとその解除ボタン(伝統的なピクトグラムより)
タッチ同様に装置以外の操作が可能となっていますが、タッチUIのアイコンボタンと「i」を除き重複しているという点に注目してください。

まず、この「画面のアイコンと同じことが出来る」という見え方をしているでしょうか。アイコンとピクトグラム*が同じではないこと、音量と呼出はリモコンのキーがふたつあること、そして画面にだけ「電源」が、リモコンにだけ「i」があること。これらを勘案すると、ぱっと見たところでは違うものに見える方が自然と思われます。
(*アイコンもピクトグラムも違いはありませんが、画面上ではアイコン、印刷上ではピクトグラムと呼ばれていました。現在はアイコンで統一されつつありますが、ここではあえて言い分けています。)

また通常「i」ボタン(インフォメーション)は評判がよろしくありません。このボタンがあること自体「この装置は複雑です」と言っていることになりますし、そのボタンを押したあとも、適切な情報を得るまでには手間が必要だからです。それがリモコンの一等地に配置されています。

これは大変よろしくない状況です。出来ることは「コンテンツを視聴する」「読書灯をつける」「CAを呼ぶ」の3つですん。Yさんは「
テレビとビデオくらいにしとけば」と書かれましたが、実際その範囲の装置でありながら「機能を欲張り過ぎた」と感じさせるに充分な外観(インターフェイス)となってしまいました。

さらにYさんの場合、意図せず「i」を触りCAがくるという経験を最初にしたことで、「i」を起点に操作方法を理解することとなりました。手間と時間と気まずい思いが「複雑さ」をより強く印象づけたことと推察します。
なお、最初の経験がなかったとしたら、人型のピクトグラムに迷う可能性は低くなったと思われます。人型のピクトグラムは長く使用されており、利用者が必要とした状況では、そのように(呼出しボタンに)見える確率が高いと考えられます。

さて、なぜ二種類のUIを併存させたのでしょうか。ここからは憶測の範囲になりますが、今ある材料の中から探って行きましょう。
まず、ANAのサイトを確認して見ますと、投稿して頂いたIFEがエアバス社A321機のエコノミークラスに、最近採用されたシステムであることがわかります。2018年現在で最新ということになりますが、それ以前は「画面+リモコン」もしくは「リモコンのみ」というもので、これらは同時運用されています。
また同機には無料Wi-Fiが用意されていて、自前のデバイスでも同じコンテンツを楽しむことが出来ます。自前のものでも機内の装置でもどちらでも利用者のよい方で、という選択肢が提供されています。
同様に、利用者の選択肢を提供するという意味で、「他の機体や席ではリモコンが使われているキーUIを提供し、タッチUIと併存させた方がよいと」いう考えが尊重されたと推察します。
また、ゲーム用のコントロールパッドが裏にあるとのことですから、この有線の装置を活用するのは自然のことだったのかも知れません。

他機種との整合性、選択肢の提供、いずれも利用者にメリットをもたらす考え方ですが、残念ながら今回の事例では返って複雑さの元となってしまいました。

<他機種との整合性>
これは「異なる機器を連続して使う人がいる」という状況への配慮です。
現行の「リモコン+画面」の機器との整合性は未確認ですが、タッチUIがない時代の「リモコン+画面」は、このシステムとは異なり、リモコンでの操作性に適化したUIだったはずです。つまり、他機種との整合性と言いましても「リモコンがある」以上の整合性はなく、かえって複雑になっているとみます。

<選択肢の提供>
これは「それを使いたい人がいる」という状況への配慮です。
この場合「タッチUIの方が使える・使いたい」という人と、「キーUIの方が使える・使いたい」という人を、どう見極めたのかが鍵になります。
ここで、冒頭の大臣の例を含め、周囲の方々を見回して見ますと、ビデオの予約が出来ないと言っていた方がスマホは使えていたり、銀行ATMが使えていたりします。
コンテンツの閲覧の範囲でしたら、タッチUIは充分に使えるUI**になっていると考えて良いでしょう。
一方で、キーUIの利点は習熟度が増した場合でのブラインドタッチやスピードがありますが、コンテンツの閲覧の範囲であれば、この利点を活かす場面は少ないと言えるでしょう。(この利点が活きるゲームには別のキーパッドが用意されていますし。)
(**音声アシスタントやARが普及すると、また状況は変わっていくでしょう。)


【診断】

一見したところ「高機能化症候群」に見えますが、タッチUIとキーUIの併存が主たる原因ですので「自社中毒(疑い)による誤選」と診断します。自社中毒には他機種の精査を必要と考え、「疑い」を追記します。
また、使用法が異なるもの同士が隣接したことによる、使用方法のイメージ(アフォーダンス)が干渉してしまう「配置性干渉障害、加えてアイコンとピクトグラムが異なることによる「表示性干渉障害」を併記します。


【処方】

では処方です。
根本的には広く使い方の浸透したタッチUIのみにするのが良いでしょう。
今年3月に乗ったルフトハンザのA350機はタッチのみのUIで、タッチUIとしてはごく普通の感覚で使えました。(以下の写真)

83 機内エンターテイメント09
よく見て頂くとわかるのですが、読書灯や呼出しのボタンはありません。この装置についてのみアイコンボタンがある、ということも合理的なものを感じました。

なお、ドイツ往復とも同じ機体に乗りましたが、帰りの便で使い方がわからずCAを呼んだご年配の方をおひとり見かけました。CAを呼ぶのには困らず、一度教えてもらったあとは使えていましたので、ここではうまく機能していたようです。

上に「なぜ二種類のUIを併存させたのか」を考察しましたが、「なぜリモコンを捨てられなかったのか」という問い立てもできます。
機種の変遷から、既にある「リモコン+画面」というデバイスに「タッチUI」を乗せただけ、という見方をすると、リモコンを捨てない方が、護られるものが多いように見えます。
もし、、
 ・判断によっては開発内容を変更できるタイミングで、
 ・機器の操作を含めたサービス全体を評価する。
・・・という手順を踏んでいたら、「あえて捨てる」という判断もあり得たのではないか、、。これも憶測の域を出ませんけれど、UIをデザインするものとしての残念さが滲みます。

最後に、憶測を控えて、現れている事象を前提とした処方をして参りましょう。


処方01:整形外科
タッチUIとキーUIの整合性をとり、複雑さを軽減する。
・アイコンとピクトグラムを揃える。
・キーUIの対になるものをまとめる。
・カーソルボタンを大きくし、アイコンを描く。
(ここでは挙動不明な「i」は処方外となっています。)

83 機内エンターテイメント10

83 機内エンターテイメント11
「画面で出来る事の一部が、リモコンでも同じように出来る」という風に見えるのが理想です。しかし、「i」の存在が大きく、理想には届いていない印象となりました。やはり根本治療が必要と考えます。

機内のUIについては過去にもありました。ご参考までに挙げておきます。



ダメを憎んでマシンを憎まず。
ダメマシンクリニックからは以上です!

No.83
対象:複合施設のトイレのリモコン
設置場所:ANA国内線 エアバスA321機内
報告者:Y.U.
報告日:2018.9.21
症例:自社中毒(疑い)による誤選および配置性表示性干渉障害
ダメ度:×××(根本治療が望ましい)
治療方針:外科「切除および再配置」


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