環境への期待値:転べる道路2024年03月08日 10:47

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

ここのところ、モノ→モノの群→環境への期待値と、モノとして扱う視点の「焦点の範囲」を広げて考える話をしています。その流れの中で前回は「家の性能をアップするとライフスタイルが変わる」という話をしました。この話は、ごく普通の常識的なことですので、驚きはないと思います。しかし、一個人がモノとして扱う視点をもったまま、その個人の意図の及ぶ範囲を超えて行こうとする思考は、今まで「前提」としていた(家の性能のような)固定的なものを考え直す機会を与えてくれるのが良いところだと思います。

神の視点と人の視点
既に確立されている「環境デザイン」「都市デザイン」にとって「大局的な視点から環境を扱うこと」は大切です。この大局的なものの見方を便宜的に「神の視点」として、一個人からの見方を「人の視点」と言い分けてみます。
神の視点発想のデザインと、人の視点発想のデザインがあり、どちらも使い分けるのが大切な事は言うまでもありません。
もしそこに、固定的なものかある場合、それは「人の視点」からは「当たり前」のこととして見えてきます。当たり前過ぎて見えなくなっていることもありますが、その「当たり前」を見つけるのはちょっとしたコツをつかめば出来るようになります。ですので、「固定的ではあっても変える必然性のあるもの」は、人の視点発想からの方が見つけやすいと私は感じています。

生活圏の延長としての「道」
話は飛びますが、大人になって子どもがうまれ、公園で遊ばせたりするようになると、子どもが土や草の上で転ぶのと、アスファルトやコンクリートで転ぶのとでは段違いの差がある事が改めてよくわかります。自分の子どもの頃のことを思い出して見ますと、家の周囲の砂利道で転ぶとすりむいた所に砂が入りとても痛いのですが、それよりコンクリート舗装の駐車場で転んだ方が、すりむくだけでなく全身がずきずきと痛くて嫌でした。子供心にコンクリートは怖いと思ったものでした。子育てから親の介護に携わる間に、「道の危なさ」については色々と身にしみていきまして、そもそも人が使うモノとして「道」は「人」にフィットしていないのではないか、、そんなことを感じたのでした。

転べる道路
「人の視点発想」でみますと、家の周囲の道を生活圏の延長として捉える事が出来ます。前回の「家の性能を上げる」のように、「家の周囲の道の性能を上げる」という考え方は出来るでしょうか。またそれはどういうことなのでしょうか。
まず「神の視点発想」は全体最適を目指します(目指すべきですよね)。それに対して「人の視点発想」は現場での最適(部分最適)を志向します。全体最適と部分最適はしばしば衝突します(「合成の誤謬」等が知られています。)が、ここではまず人の視点にたって見ます。
家の性能を上げる考えでは、結果的に人が安全に健やかに過ごせることが分かりました。道路の安全というと交通安全を考えてしまいがちですが、それは「道の性能」だけではなく、ルールと運用の話にもなってしまいます。ですので、道にとって「人が安全に健やかに過ごせる性能」とは、"路面の性能"が安全や健康に寄与する事と、ひとまずは言えるでしょう。
そう考えますと「柔らかく転んでもダメージの少ない路面」が良さそうです。これはデザインの前提のひとつである「人の失敗を許容する」という視点にも合致しています。
転んでもよい道なら、つかまり立ちのあかちゃんも、リハビリ中のおじいちゃんも、家の外で歩くことのハードルが下がります。そして道を歩くこと自体が楽しくなるでしょう。

GREEN CANAL
このようなことを2005年頃から考えるようになりました。人の視点発想を出発点として、神の視点発想と行き来しながら思案したアイデアを、2020年に一度まとめたものがあります。(GREEN CANALプロジェクト・英文PDF

GreenCanalProject_2020dmc-1

この「GREEN CANAL」は、都市の災害軽減とオアシスの創出を目的とした美しい道路の構想です。道路が人々の生活を支え、喜びを提供する美しい水路のようになることを願って名付けました。
この「路面」は、柔らかく水を透過する表面、適切な表土と透水性の下土、水分を保持する層、衝撃吸収と地震隔離の技術を利用して、都市のヒートアイランド効果を軽減し、洪水を減少させるなど、都市災害を軽減させることも期待しています。
一方で、車の性能を最大限に引き出せない、インフラのためのスペースが限られるなど、デメリットもあります。しかしその「GREEN CANAL」のデメリットこそが将来の革新の出発点でもある、という見方をしています。(詳細は後ほど)

環境への期待値:家の性能2024年03月06日 18:25

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

モノを群相としてみてみると、モノが環境への期待値に寄与する、という視点に気付いたというお話しをしました。この話の「環境」は主に生活の拠点のことですので、つまり「家」ですね。

家の性能
建築家の知人によると、日本の民家は蒸し暑い夏をいかに楽に過ごすかを考え抜いた造りをしているそうです。日を遮る長いひさし、湿気を逃がす縁の下、風通し良く面積を調整できる部屋、煙が上に抜けて行く屋根裏、、夏の炎天下での生産性が生活に直結していた時代に出来上がった様式なのだ、と。なるほどと思います。
しかしこれは冬には厳しい造りです。それぞれの地域に根ざした冬装備がありますが、基本的には熱源の周囲で暮らす様式が一般的だと思います。囲炉裏やこたつ、ストーブのまわりに集まって手仕事をする姿は、リアルではしらない世代でも容易に想像出来るでしょう。
この様式が根づいていたため、近代西洋化の際にも日本の家の性能(断熱性や遮音性など)は旧来のままでした。

ちょっと検索して見ますと、日本の家の断熱性能が世界でもダントツに悪く資産価値も低くなる、という話がでてきます。(参考1,2,3
エネルギー政策的に規制を強化して行く流れもありますす。(2025年4月より省エネ基準適合の義務化PDF

規制強化の流れは、省エネと資産価値の文脈だけでなく、断熱性能が上がった家での暮らしがどう変わるのかにも触れられていますね。
その視点、暮らしがどうなるかというところを「環境への期待値」としてイメージしてみましょう。

性能アップがライフスタイルを変える
断熱性能の上がった家では、、
・家の中の多くがここちよい場所となるため、くつろいだり何かをつくったり楽しんだりする場所の可能性が広がる
・温度変化を気にせず室内を移動出来るので服装の自由度が広がる
・疲れたり体調が悪くなった時も家のどこでも過ごせるのでストレスが少ない
・居場所が固定されにくいのでコミュニケーションのかたちが広がる
ちょっと考えただけでもライフスタイルを変えて行く事が想像出来ます。

おまけ:政策提案
さらに、断熱性能と有病率の相関を示す論文がありました。PDF 断熱性能が高い家に引っ越すとがくっと病気になりにくくなるんです。凄い。
エネルギーと安全保障だけじゃなくて医療費とか労働力とか、かなりの底上げになるんじゃないでしょうか。
そこで、以下の政策を提案しておきます。(財源試算も効果の見積もりもついていませんので、政策というよりコンセプト案ですね。あしからず。)
・全ての建築物の断熱性能を等級6(2022年設定)以上義務化
・窓などの建材の断熱性能を世界最高水準に義務化
・全ての既存住宅の断熱性能改善を等級5以上への改修の義務化
・既存住宅の改善は補助金と金利優遇措置

モノを群相で捉えた時に見えてくる「環境への期待値」と言う視点は、環境そのものの本質に迫れるという話でした。

リセルバリューと再販市場 22024年02月23日 10:49

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回(1)の「リセルバリューを高めると良さそうだ、しかし、、」と言うお話の続きです。

早速ですが、リセルバリューを高める努力が、提供者側のデメリットになる要因をあげてみます。

【リセルバリューのデメリット】
1)購入の慎重化
リセルバリューの高い商品は、初期投資が大きい傾向がある。消費者はその価値が長期間にわたって維持されることを知っているため、購入する際により慎重になる。これは、消費者が購入を決定する前に、その商品が本当に必要か、または長期的に見て価値のある投資かどうかをよく考えるようになるため。
2)所有の価値再評価
リセルバリューが高い商品を所有することは、投資の側面もある。そのため、消費者は新たに商品を購入するよりも、既存の価値のある商品を大切に使用し、必要な場合にのみ新しい商品へと更新するという選択をしやすい。
3)再販市場の成長
リセルバリューの高い商品は再販市場での需要が高く、消費者は新品を購入する代わりに、中古品市場で同等の品質を持つ商品を探すことが増える。これは、新品市場の成長を抑制し、消費者が新商品の購入を絞る一因となる。
4)サステナビリティへの意識向上
環境への影響に対する意識の高まりは、消費者が不必要な新商品の購入を避け、長期的に使用できる商品に価値を見出す傾向を強化する。リセルバリューの高い商品は、その再利用や再販の可能性が高いため、サステナブルな消費選択として再販市場が魅力的になる。
5)経済的理由
経済的に合理的な消費者は、リセルバリューの高い商品を購入することで、将来的にその商品を売却し、投資した資金の一部を回収することができると考える。その結果、ここでも新商品の購入頻度が低下し再販市場を重視する傾向がある。
またこれらの現象は特に、高価な消費財や耐久性の高い商品の市場で顕著に見られるようです。

再販市場との付き合い:3つの選択肢
リセルバリューを高める努力は、長期的に見てもSDGs的な視点で見ても素晴らしいといえますが、同時に、新商品への需要を減少させる可能性があるという複雑な影響を市場にもたらし提供者側に多大な負担と我慢を強いるものでもあります。
再販市場とどう付き合うか。つくって売ってアフターサービスをする、の次の課題として重要です。
再販に対して講じる対処には、
1)再販禁止・不可
2)再販を管理下に置く
3)再販市場からのキャッシュフローを構築
の3つがありそうです。(厳格な販売管理については省略)
1の「再販禁止・不可」と2の「再販を管理下に置く」は、スポーツやコンサートのチケット売買では導入実績がありますね。また、ディーラーの認定中古車は2の一例でしょう。
3の「再販市場からのキャッシュフローを構築」の実例はなかなか思い当たりません。米国では図書館で貸し出されると作家さんにロイヤリティが支払われる仕組みがあるそうですが、中古市場でもそのような仕組みができるのが理想でしょう。それができれば「良いものを長く使う」ことがそのままSDGsでもあり、オリジナルを護る事にもなりますから。
法規や政策といった話になりやすい話題ですが、着目点として記憶に留めたいと思います。

リセルバリューと再販市場 12024年02月21日 10:41

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

「中古市場に出さない」という応援
先日妻が書籍を処分する際、ブックオフや買い取りサイトを使わず「古紙回収」に出していました。分量があったのでなぜお金にしないのかと聞きますと、
「中古市場からは作家さんに一円も入らない。読みたくなったらまた新刊を買う。これが大好きな作家さんに書き続けてもらうためには一番必要なこと。」
ですって。なるほどと思いました。著作者保護の視点からみると、中古市場は全くの無法地帯ですものね。

そこでデザインにおけるリセルバリューを考える前に、リセルバリューについておさらいしてみます。

【リセルバリュー】
商品や資産が市場で再販売される際に持つ価値のこと。つまり、購入した時点の価格と比較して、将来的にその商品がどれだけの価値を保持または増加するかの見込みのこと。リセルバリューが高い商品は、購入後に手放す際にも元の価格に近い価格、あるいはそれ以上で売却できる可能性がある。

【リセルバリューが高くなりやすい製造方法、素材、仕組み】
1)限定生産
限定版や特別版など、生産数が限られている商品は希少性が高く、リセル市場での価値が上がりやすい。
2)高品質の素材
貴金属は素材としての価格相場がある。また、耐久性が高く、長持ちする素材で作られた商品は、時間が経っても価値が下がりにくく、リセルバリューが保持されやすい。
3)クラフトマンシップ
手作業による高い技術や熟練した職人による製造過程は、一般的な量産品とは異なる独自性と価値を生み出し、リセルバリューを高める。
4)ブランドの価値
一部の高級ブランドや著名なデザイナーの商品は、ブランド自体の知名度やステータスによりリセルバリューが高まることがある。
5)収集可能性
コレクターズアイテムやアート作品など、収集価値のある商品は、時間が経つにつれてその価値が上昇することがある。
6)維持・保管のしやすさ
劣化しにくい、または適切な保管によって状態を良好に保てる商品は、リセル時に高い価値を維持しやすい。

【消費者のメリット】
リセルバリューを持つ商品は、購入者にとって将来的に資金を回収する機会を提供するため、リセルバリューを重視する消費者にとって魅力的な選択肢となる。

【提供者のメリット】
1)ブランドの価値向上
リセルバリューが高い製品をデザインすることで、そのブランドの製品が質が高く、長持ちするという印象を消費者に与える。これはブランドイメージの向上に寄与し、新規顧客の獲得や既存顧客のロイヤリティ強化につながる。
2)持続可能性への貢献
リセルバリューを意識したデザインは、製品が長く使われることを促し、廃棄物の削減に貢献する。これは環境保護の観点からも重要であり、社会的責任を果たす企業としての評価を高める。
3)消費者の信頼獲得
製品が再販市場で価値を保持することは、購入時のリスクを軽減する。消費者はその製品が価値のある投資であると感じ、ブランドへの信頼を深めることができる。
4)購入動機
消費者は使用後も製品から経済的価値を回収できるという期待値は、購入の決定要因となり得る。
5)市場での競争力強化
リセルバリューの高い製品をデザインすることは、競合との差別化を図り、市場での競争力を高める手段となうる。消費者はより良い価値を提供する製品を選びたいと考えるため、そのような製品を提供するブランドに注目が集まる。

以上のように、リセルバリューを高める努力は、製品のデザインにおいて長期的な価値を提供することを目指し、消費者、ブランド、そして環境にとっても利益をもたらすように見えます。しかし、先週ご紹介した記事「IITTALA事件 「大量廃棄」は高コストの贅沢に」にあるように、イッタラの様なブランド価値が高くリセルバリューのある製品を多く揃えていると思われる企業にも大転換がありました。冒頭の中古市場が作家を苦しめる構図が思い出されます。もう少し考えて見ましょう。

次回(2)につづく

リセルバリューと投資2024年02月19日 10:15

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回は手放す時に「生活を回すモノ」に価値転換が起きる話をしました。リセルバリューがあればキャッシュに交換出来ますし、なにより捨てなくて済みます。
一般にリセルバリューとは、商品や資産が再販される際の価格のことを指します。普通、中古品は新品に比べて価格が低くなる傾向にあります。しかし、金、株、アート作品、不動産など一部の商品や資産は、新品時や購入時よりも売却時の価格が上がることがあります。これらはよく知られた投資対象となり得るモノたちです。

リセルバリューを意図するか
当然、デザインするものが投資対象であれば、投資価値を高めることを考慮する必要があります。
一方で、投資対象でない場合でも、その市場の性質からリセルバリューをある程度考慮する必要があるかもしれません。そしてこれは単にリセルバリューを高めればいいという話ではありませんけれど。

いずれにせよ、デザインプロセスにおいては、単に商品の機能性や美しさだけでなく、その商品が将来的にどのような価値を持つことができるか、またその価値がどのように変動する可能性があるかを見極めることは、忘れてはならないことでしょう。消費者にとって長期的な価値を提供することが大切なのですから。
dmc.
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