リセルバリューと再販市場 22024年02月23日 10:49

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回(1)の「リセルバリューを高めると良さそうだ、しかし、、」と言うお話の続きです。

早速ですが、リセルバリューを高める努力が、提供者側のデメリットになる要因をあげてみます。

【リセルバリューのデメリット】
1)購入の慎重化
リセルバリューの高い商品は、初期投資が大きい傾向がある。消費者はその価値が長期間にわたって維持されることを知っているため、購入する際により慎重になる。これは、消費者が購入を決定する前に、その商品が本当に必要か、または長期的に見て価値のある投資かどうかをよく考えるようになるため。
2)所有の価値再評価
リセルバリューが高い商品を所有することは、投資の側面もある。そのため、消費者は新たに商品を購入するよりも、既存の価値のある商品を大切に使用し、必要な場合にのみ新しい商品へと更新するという選択をしやすい。
3)再販市場の成長
リセルバリューの高い商品は再販市場での需要が高く、消費者は新品を購入する代わりに、中古品市場で同等の品質を持つ商品を探すことが増える。これは、新品市場の成長を抑制し、消費者が新商品の購入を絞る一因となる。
4)サステナビリティへの意識向上
環境への影響に対する意識の高まりは、消費者が不必要な新商品の購入を避け、長期的に使用できる商品に価値を見出す傾向を強化する。リセルバリューの高い商品は、その再利用や再販の可能性が高いため、サステナブルな消費選択として再販市場が魅力的になる。
5)経済的理由
経済的に合理的な消費者は、リセルバリューの高い商品を購入することで、将来的にその商品を売却し、投資した資金の一部を回収することができると考える。その結果、ここでも新商品の購入頻度が低下し再販市場を重視する傾向がある。
またこれらの現象は特に、高価な消費財や耐久性の高い商品の市場で顕著に見られるようです。

再販市場との付き合い:3つの選択肢
リセルバリューを高める努力は、長期的に見てもSDGs的な視点で見ても素晴らしいといえますが、同時に、新商品への需要を減少させる可能性があるという複雑な影響を市場にもたらし提供者側に多大な負担と我慢を強いるものでもあります。
再販市場とどう付き合うか。つくって売ってアフターサービスをする、の次の課題として重要です。
再販に対して講じる対処には、
1)再販禁止・不可
2)再販を管理下に置く
3)再販市場からのキャッシュフローを構築
の3つがありそうです。(厳格な販売管理については省略)
1の「再販禁止・不可」と2の「再販を管理下に置く」は、スポーツやコンサートのチケット売買では導入実績がありますね。また、ディーラーの認定中古車は2の一例でしょう。
3の「再販市場からのキャッシュフローを構築」の実例はなかなか思い当たりません。米国では図書館で貸し出されると作家さんにロイヤリティが支払われる仕組みがあるそうですが、中古市場でもそのような仕組みができるのが理想でしょう。それができれば「良いものを長く使う」ことがそのままSDGsでもあり、オリジナルを護る事にもなりますから。
法規や政策といった話になりやすい話題ですが、着目点として記憶に留めたいと思います。

リセルバリューと再販市場 12024年02月21日 10:41

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

「中古市場に出さない」という応援
先日妻が書籍を処分する際、ブックオフや買い取りサイトを使わず「古紙回収」に出していました。分量があったのでなぜお金にしないのかと聞きますと、
「中古市場からは作家さんに一円も入らない。読みたくなったらまた新刊を買う。これが大好きな作家さんに書き続けてもらうためには一番必要なこと。」
ですって。なるほどと思いました。著作者保護の視点からみると、中古市場は全くの無法地帯ですものね。

そこでデザインにおけるリセルバリューを考える前に、リセルバリューについておさらいしてみます。

【リセルバリュー】
商品や資産が市場で再販売される際に持つ価値のこと。つまり、購入した時点の価格と比較して、将来的にその商品がどれだけの価値を保持または増加するかの見込みのこと。リセルバリューが高い商品は、購入後に手放す際にも元の価格に近い価格、あるいはそれ以上で売却できる可能性がある。

【リセルバリューが高くなりやすい製造方法、素材、仕組み】
1)限定生産
限定版や特別版など、生産数が限られている商品は希少性が高く、リセル市場での価値が上がりやすい。
2)高品質の素材
貴金属は素材としての価格相場がある。また、耐久性が高く、長持ちする素材で作られた商品は、時間が経っても価値が下がりにくく、リセルバリューが保持されやすい。
3)クラフトマンシップ
手作業による高い技術や熟練した職人による製造過程は、一般的な量産品とは異なる独自性と価値を生み出し、リセルバリューを高める。
4)ブランドの価値
一部の高級ブランドや著名なデザイナーの商品は、ブランド自体の知名度やステータスによりリセルバリューが高まることがある。
5)収集可能性
コレクターズアイテムやアート作品など、収集価値のある商品は、時間が経つにつれてその価値が上昇することがある。
6)維持・保管のしやすさ
劣化しにくい、または適切な保管によって状態を良好に保てる商品は、リセル時に高い価値を維持しやすい。

【消費者のメリット】
リセルバリューを持つ商品は、購入者にとって将来的に資金を回収する機会を提供するため、リセルバリューを重視する消費者にとって魅力的な選択肢となる。

【提供者のメリット】
1)ブランドの価値向上
リセルバリューが高い製品をデザインすることで、そのブランドの製品が質が高く、長持ちするという印象を消費者に与える。これはブランドイメージの向上に寄与し、新規顧客の獲得や既存顧客のロイヤリティ強化につながる。
2)持続可能性への貢献
リセルバリューを意識したデザインは、製品が長く使われることを促し、廃棄物の削減に貢献する。これは環境保護の観点からも重要であり、社会的責任を果たす企業としての評価を高める。
3)消費者の信頼獲得
製品が再販市場で価値を保持することは、購入時のリスクを軽減する。消費者はその製品が価値のある投資であると感じ、ブランドへの信頼を深めることができる。
4)購入動機
消費者は使用後も製品から経済的価値を回収できるという期待値は、購入の決定要因となり得る。
5)市場での競争力強化
リセルバリューの高い製品をデザインすることは、競合との差別化を図り、市場での競争力を高める手段となうる。消費者はより良い価値を提供する製品を選びたいと考えるため、そのような製品を提供するブランドに注目が集まる。

以上のように、リセルバリューを高める努力は、製品のデザインにおいて長期的な価値を提供することを目指し、消費者、ブランド、そして環境にとっても利益をもたらすように見えます。しかし、先週ご紹介した記事「IITTALA事件 「大量廃棄」は高コストの贅沢に」にあるように、イッタラの様なブランド価値が高くリセルバリューのある製品を多く揃えていると思われる企業にも大転換がありました。冒頭の中古市場が作家を苦しめる構図が思い出されます。もう少し考えて見ましょう。

次回(2)につづく

リセルバリューと投資2024年02月19日 10:15

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回は手放す時に「生活を回すモノ」に価値転換が起きる話をしました。リセルバリューがあればキャッシュに交換出来ますし、なにより捨てなくて済みます。
一般にリセルバリューとは、商品や資産が再販される際の価格のことを指します。普通、中古品は新品に比べて価格が低くなる傾向にあります。しかし、金、株、アート作品、不動産など一部の商品や資産は、新品時や購入時よりも売却時の価格が上がることがあります。これらはよく知られた投資対象となり得るモノたちです。

リセルバリューを意図するか
当然、デザインするものが投資対象であれば、投資価値を高めることを考慮する必要があります。
一方で、投資対象でない場合でも、その市場の性質からリセルバリューをある程度考慮する必要があるかもしれません。そしてこれは単にリセルバリューを高めればいいという話ではありませんけれど。

いずれにせよ、デザインプロセスにおいては、単に商品の機能性や美しさだけでなく、その商品が将来的にどのような価値を持つことができるか、またその価値がどのように変動する可能性があるかを見極めることは、忘れてはならないことでしょう。消費者にとって長期的な価値を提供することが大切なのですから。

資産も生活を回すモノ:資産としてのアート2024年02月16日 09:50

デザインで飛躍を企むみなさまおはようございます^^

交換可能な価値
先日、大量処分を経験したことから、モノの3つの価値が見えたというお話をしました。これらは個人的主観的な価値ですが、この価値体系とは別のいわゆる市場経済上の交換可能な価値が存在します。「値段が付く」ということですね。今日はこの点について考えてみたいと思います。

リセルバリュー
今回わたしはある作家さんの作品を手放しました。好きで手元に置きたくて購入したもので、気に入って時々飾ったりして楽しみました。「3つの価値」で言えば私にとっての「思想信条を表すモノ」そのものです。それを手放した時、著名作家の代表的なモチーフの作品という事で、入手価格よりも高い値段が付きました。資産としてのアートを実感した瞬間でした。資産はキャッシュを産んだり交換出来るものですから、これは「生活を回す」を支えるモノといえます。ここでも3つの価値の間に転換がありました。
さて、手放す際に金銭に交換できる価値のことを「リセルバリュー」と呼びますが、このリセルバリューがあるかどうかは市場=社会が決めます。3つの価値を「個人的主体的な価値」とするならば、リセルバリューは「客観的社会的価値」と言えるでしょう。

物語を繋ぐことは価値体系を繋ぐこと
ここに、大きな物語と小さな物語と同様の「個と普遍の対比と接続」が見ます。デザインが価値創造を考えるならば、この視点もやはり大切だといえます。

修理可能性と「生活を回すもの」の終わり2024年02月12日 10:22

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

モノの3つの価値
前回は私の気付いたモノの3つの価値についてのお話をしました。ひとつのモノは3つの価値(生活を回す・記憶を呼び起こす・思想信条を表す)で見る事が出来ます、という話です。一つの側面しかないモノもありますが、3つの価値を合わせ持つモノもあります。
たとえば、私が日常的に使っている揃いの浅い茶わん。この茶わんは母が生前最後に自分で求めたものでしたので、折りに触れて母や家族との思い出を感じさせます。いくつかは割れたりかけたりしましたが、金継ぎをかけて鑑賞に堪える見栄えを持つようになりました。この茶わんは私にとっては生活を回すものであり、記憶を呼び起こすものであり、思想信条をあらわすものであります。

価値が増える
同じように揃いで求めた思い出もある茶わんやティーカップでも、欠けたり割れたりして処分したものもあります。私の中で、この違いがなぜ生じるのか不思議で興味深いこととなりました。捨てておわるモノと直して使い続けるモノはとこがどう違うのでしょう。
上の茶わんはある窯元の定番品で、高級品ではありませんが母も私も気に入っていました。直したことで姿がより魅力的になりました。母の最後のお買い物というエピソードもあります。
やはり、
・良いものである
・直せる
・エピソードがある
が揃っていたから使い続けようと思ったのでした。
(残した茶わんより高額な品でも、愛着が薄かったり直せなかったりしたものは処分しました。処分は売ったり差し上げたり捨てたりしました。)

「生活を回すモノ」の終わり
生活を回すモノが壊れたり不要になった時、つまり「生活を回す」価値が失われた時に、そのモノの終わり方を考えることはとても大切テーマだと感じます。
生活を回すモノが壊れたり不要になった時に私たちは、そのモノに込められた記憶や個人の思想、心情を保持するにはどうしたらいいかを突きつけられるからです。このプロセスはちょっとしんどいことですけれど、モノとの関係性を深め、大袈裟に言えば物質的な文化における個人の位置づけを再考させる機会となります。

修理可能性
ここで持続可能な消費と生産の観点からみたとき、「修理可能性」が極めて重要なことに気付きます。
SDGs(持続可能な開発目標)の中の目標12「つくる責任、つかう責任」に関連させて考えますと、資源の有効利用、廃棄物の削減、環境への負担軽減など、持続可能な社会を目指す上で「修理」は欠かせません。修理を通じてモノの寿命を延ばすことは、廃棄物を減らし、新たな資源の消費を抑えることに直結します。
見回しますと、地域社会の経済や職人技術の保持にも寄与し、多面的な価値を生み出す可能性をもつものとして修理文化の復活が語られてもいますよね。

モノの修理可能性に注目することは、単に経済的、環境的側面だけでなく、社会的、文化的側面からも重要な意味を持っている事が分かります。
デザインが「良いもの」を志向するのは当然の事として、その中に修理可能性を内包させる事は大きな意味を持つでしょう。

余談:モノによっては修理できない、もしくはさせないという意図も成立すると思いますがそれはまた。
dmc.
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