GREEN CANAL:デメリットが育む未来2024年03月15日 10:08

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

「GREEN CANAL」のデメリット、そしてそのデメリットが育む未来についてです。(三回目/全三回)

前回までに「GREEN CANAL」のアイデアと期待出来る変化のお話をしました。
今回は、デメリットを考えて見たいと思います。

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「GREEN CANAL」は、美しくて柔らかいということと雨水の循環に寄与するという性能を最優先したものです。その点から考えられるデメリットを上げて見ます。

GREEN CANAL のデメリット
1:車の性能を引き出せない
自動車に最適化されたアスファルトと比して、圧倒的にスピードが出せず、止まりにくい路面でしょう。

2:インフラに使用するパイプのスペースが限られる
比較的不安定で浅い層に狭められるインフラのパイプは、容量は限られジョイント構造の構築も難しそうです。

3:表面の植物の管理が複雑
天然(もしくは人工的に作出された植物)は、枯れやすい、繁茂しやすい、害虫の温床になるなど、脆弱で管理の難しいものになる。

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これらのデメリットは、強固に構築された現代のシステムの基盤に関わります。それらの基盤をまるごとワンアイデアで置き換えるのはやっぱり乱暴な話ですね。

しかしここは夢想を優先しまして、別々に進化してきた都市、道路、クルマの歴史をざっくりと振り返りますと、いずれも百数十年のことでもあります。
百数十年。同じ時間を未来に見ようとしますと、この「基盤の強固さ」はそれほどでもないかも、、という気がしなくも有りません。
「GREEN CANAL」のデメリットは、「未来に必要なイノベーションの出発点になる」と見立てる事も悪くはないと考えます。
その視点から見た未来、2020年の時点では以下のようなものでした。

道は街を癒し、人々は道路を愛するようになる。
1:より優しく
クルマは全方位に優しく、低負荷になる。
2:オフグリッド
建築はオフグリッドに移行し、インフラへの依存を減らす。(独立性を増す。)
3:代替手段
自動車以外のパーソナルモビリティが都市に登場する。
4:知の集約
都市の植物を育て、維持するための知識が集約され、さまざまな方法で利用されるようになる。

アフターコロナでSDG'sの共有が広がりつつある現在、都市の道路のあり方を真剣に見つめ直す動きが目立つようになってきました。たとえば、オーバーツーリズムの問題では都市に流入する車両を大幅に制限したり、小車両(自転車やキックボードなど)優先の道路を再構築したり、ドローンを実用化したり、、と。
「生活圏の延長としての都市」という見方、、まだまだ色々と考えられそうです。

※おことわり※
これまでのさまざまなアイデアや構想の実現性とその効果については、実験もコンピューターシミュレーションもしていません。全て思考の産物に留まっています。念のため。

GREEN CANAL:東京の場合2024年03月13日 17:40

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

「GREEN CANAL」、東京の場合のお話です。(二回目/全三回)

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まず、東京23区の都市災害の現状(2020年時の確認)を。

総面積   627.57km2(*1)
道路総延長 11,968km
道路比率  16.5%
道路面積  103.4km2

都市化の影響
1:気温上昇は+3.2℃
100年間での数字・夏 +2.1℃/冬 +4.2℃(*2)
全世界では+0.6℃(*3)

2:人工的な熱損失は20%
日射熱取得量の20%に達する。(24W/m2)*3

3:平均相対湿度は17%減少
冬の乾燥度100年間での数字

災害リスクの増大
1:「猛烈な雨」1.7倍
30年間での数字(*4)

2:熱中症による死亡者数 7倍
1993年以前と1994年以降の平均(*5)

*1 東京都建設局 2018年
*2 気象庁 2018年(湿度は隣接都市からの類推) 
*3 最近の都市ヒートアイランド研究の進展: 東京都の事例を中心に 三上武彦 2006.  
*4 最近の気象現象の変化 株式会社ウェザーニューズ 2016 年 日本全体の数値
*5 環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」 日本全体の数値

都市化と地球温暖化が相互作用して、災害リスクが増大しています。
(詳しい因果関係は今でも不明点は多いそうですが)

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23区内の道路の10%を「GREEN CANAL」に置き換えた場合の試算です。

10%を「GREEN CANAL」に置き換えた場合
1:保水空間は10倍
618万m3の増加(*6)
都の雨水貯留施設計59.9万m3の10倍の容量(*7)

2:オープンな緑地は9倍
+10.3 km2
皇居の9倍に相当

*6 保水層の深さ2m、保水率30%と仮定。
*7 東京都大雨対策の基本方針(2013年改訂版)

「保水力と緑地が増える」ことによる効果を試算する式は見つけられませんでしたので、どの程度の実効性があるか分かりませんが、少なくともヒートアイランド現象はかなり抑えられ、特に夏場の過ごしやすさはかなり改善されそうです。

次回(三回目)はデメリットについてです。

GREEN CANAL:美しく、安全で、人々のオアシスになる2024年03月11日 10:49

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回ご紹介した「GREEN CANAL」、概要をお伝えしますね。(一回目/全三回)

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「GREEN CANAL」のイメージする未来は「美しく、安全で、人々のオアシスになる都市」での生活です。
 子供の頃、私は幹線道路のそばに住んでいまして、満員の路面電車やその間を急ぎ足で行き来する車や人々を眺めるのが好きでした。しかし、その道路は事故が多く、空気も今よりずっと汚かったので、そこに留まるのは危険なことでした。
  大人になってから、ヴェネツィアや蘇州など水路のある美しい都市を訪れ、人々が水路をいかに愛しているかを目の当たりにした時、子供の頃の思い出が蘇りました。私が大好きだった道路が、この水路のように美しく、人々の生活を支え、そばにたたずむ喜びに溢れていたら、、。そんな夢想が出発点となっています。

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具体的には、「GREEN CANAL」は5層になった道路のアイデアです。その仕組みは以下のようになっています。

1層目:柔らかく、美しく、透水性のある表面(天然芝、人工芝など)
2層目:表層に適した表土(砂混合土など)
3層目:透水性の下層土(多孔質セラミックなど)
4層目:透水性隔離スクリーン(土壌の流出と液状化を防ぐ)
5層目:保水層(保水スペースの多い瓦礫など)
インフラのバイブは管理しやすい3層目に敷設します。
この構造は、道路自体が局所的な雨水の循環を担っています。4層目のスクリーンは、粒子の移動を制限する事で、機能保全と地震の際の液状化抑制の役割があります。

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「GREEN CANAL」に期待される主な効果は以下の4つです。

1:ヒートアイランド現象の抑制
夏は表面を冷やし、冬は空気を加湿します。
2:洪水の抑制
急な豪雨でも短時間で浸透・保水します。
3:事故死の抑制
柔らかい表面が転倒事故の衝撃を和らげます。
4:液状化被害を軽減
地震による液状化を抑制し、インフラや路面への被害を最小限に抑えます。

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都市により気候が異なりますから「GREEN CANAL」の構造にはバリエーションが必要です。
ざっくりと以下のようなバリエーションが考えられます。

○地盤が軟弱
杭式地盤補強などで地盤を強化し、さらに布基礎を設けるなど。
○水が多い
保水層を拡大、水路化するなど。
○乾燥している
インフラを利用して給水システムを設置するなど。
○地表植物が生い茂る
人工芝の採用など。

次回(二回目)は東京の現状にてらしあわせたものをご紹介します。

環境への期待値:転べる道路2024年03月08日 10:47

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

ここのところ、モノ→モノの群→環境への期待値と、モノとして扱う視点の「焦点の範囲」を広げて考える話をしています。その流れの中で前回は「家の性能をアップするとライフスタイルが変わる」という話をしました。この話は、ごく普通の常識的なことですので、驚きはないと思います。しかし、一個人がモノとして扱う視点をもったまま、その個人の意図の及ぶ範囲を超えて行こうとする思考は、今まで「前提」としていた(家の性能のような)固定的なものを考え直す機会を与えてくれるのが良いところだと思います。

神の視点と人の視点
既に確立されている「環境デザイン」「都市デザイン」にとって「大局的な視点から環境を扱うこと」は大切です。この大局的なものの見方を便宜的に「神の視点」として、一個人からの見方を「人の視点」と言い分けてみます。
神の視点発想のデザインと、人の視点発想のデザインがあり、どちらも使い分けるのが大切な事は言うまでもありません。
もしそこに、固定的なものかある場合、それは「人の視点」からは「当たり前」のこととして見えてきます。当たり前過ぎて見えなくなっていることもありますが、その「当たり前」を見つけるのはちょっとしたコツをつかめば出来るようになります。ですので、「固定的ではあっても変える必然性のあるもの」は、人の視点発想からの方が見つけやすいと私は感じています。

生活圏の延長としての「道」
話は飛びますが、大人になって子どもがうまれ、公園で遊ばせたりするようになると、子どもが土や草の上で転ぶのと、アスファルトやコンクリートで転ぶのとでは段違いの差がある事が改めてよくわかります。自分の子どもの頃のことを思い出して見ますと、家の周囲の砂利道で転ぶとすりむいた所に砂が入りとても痛いのですが、それよりコンクリート舗装の駐車場で転んだ方が、すりむくだけでなく全身がずきずきと痛くて嫌でした。子供心にコンクリートは怖いと思ったものでした。子育てから親の介護に携わる間に、「道の危なさ」については色々と身にしみていきまして、そもそも人が使うモノとして「道」は「人」にフィットしていないのではないか、、そんなことを感じたのでした。

転べる道路
「人の視点発想」でみますと、家の周囲の道を生活圏の延長として捉える事が出来ます。前回の「家の性能を上げる」のように、「家の周囲の道の性能を上げる」という考え方は出来るでしょうか。またそれはどういうことなのでしょうか。
まず「神の視点発想」は全体最適を目指します(目指すべきですよね)。それに対して「人の視点発想」は現場での最適(部分最適)を志向します。全体最適と部分最適はしばしば衝突します(「合成の誤謬」等が知られています。)が、ここではまず人の視点にたって見ます。
家の性能を上げる考えでは、結果的に人が安全に健やかに過ごせることが分かりました。道路の安全というと交通安全を考えてしまいがちですが、それは「道の性能」だけではなく、ルールと運用の話にもなってしまいます。ですので、道にとって「人が安全に健やかに過ごせる性能」とは、"路面の性能"が安全や健康に寄与する事と、ひとまずは言えるでしょう。
そう考えますと「柔らかく転んでもダメージの少ない路面」が良さそうです。これはデザインの前提のひとつである「人の失敗を許容する」という視点にも合致しています。
転んでもよい道なら、つかまり立ちのあかちゃんも、リハビリ中のおじいちゃんも、家の外で歩くことのハードルが下がります。そして道を歩くこと自体が楽しくなるでしょう。

GREEN CANAL
このようなことを2005年頃から考えるようになりました。人の視点発想を出発点として、神の視点発想と行き来しながら思案したアイデアを、2020年に一度まとめたものがあります。(GREEN CANALプロジェクト・英文PDF

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この「GREEN CANAL」は、都市の災害軽減とオアシスの創出を目的とした美しい道路の構想です。道路が人々の生活を支え、喜びを提供する美しい水路のようになることを願って名付けました。
この「路面」は、柔らかく水を透過する表面、適切な表土と透水性の下土、水分を保持する層、衝撃吸収と地震隔離の技術を利用して、都市のヒートアイランド効果を軽減し、洪水を減少させるなど、都市災害を軽減させることも期待しています。
一方で、車の性能を最大限に引き出せない、インフラのためのスペースが限られるなど、デメリットもあります。しかしその「GREEN CANAL」のデメリットこそが将来の革新の出発点でもある、という見方をしています。(詳細は後ほど)

環境への期待値:家の性能2024年03月06日 18:25

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

モノを群相としてみてみると、モノが環境への期待値に寄与する、という視点に気付いたというお話しをしました。この話の「環境」は主に生活の拠点のことですので、つまり「家」ですね。

家の性能
建築家の知人によると、日本の民家は蒸し暑い夏をいかに楽に過ごすかを考え抜いた造りをしているそうです。日を遮る長いひさし、湿気を逃がす縁の下、風通し良く面積を調整できる部屋、煙が上に抜けて行く屋根裏、、夏の炎天下での生産性が生活に直結していた時代に出来上がった様式なのだ、と。なるほどと思います。
しかしこれは冬には厳しい造りです。それぞれの地域に根ざした冬装備がありますが、基本的には熱源の周囲で暮らす様式が一般的だと思います。囲炉裏やこたつ、ストーブのまわりに集まって手仕事をする姿は、リアルではしらない世代でも容易に想像出来るでしょう。
この様式が根づいていたため、近代西洋化の際にも日本の家の性能(断熱性や遮音性など)は旧来のままでした。

ちょっと検索して見ますと、日本の家の断熱性能が世界でもダントツに悪く資産価値も低くなる、という話がでてきます。(参考1,2,3
エネルギー政策的に規制を強化して行く流れもありますす。(2025年4月より省エネ基準適合の義務化PDF

規制強化の流れは、省エネと資産価値の文脈だけでなく、断熱性能が上がった家での暮らしがどう変わるのかにも触れられていますね。
その視点、暮らしがどうなるかというところを「環境への期待値」としてイメージしてみましょう。

性能アップがライフスタイルを変える
断熱性能の上がった家では、、
・家の中の多くがここちよい場所となるため、くつろいだり何かをつくったり楽しんだりする場所の可能性が広がる
・温度変化を気にせず室内を移動出来るので服装の自由度が広がる
・疲れたり体調が悪くなった時も家のどこでも過ごせるのでストレスが少ない
・居場所が固定されにくいのでコミュニケーションのかたちが広がる
ちょっと考えただけでもライフスタイルを変えて行く事が想像出来ます。

おまけ:政策提案
さらに、断熱性能と有病率の相関を示す論文がありました。PDF 断熱性能が高い家に引っ越すとがくっと病気になりにくくなるんです。凄い。
エネルギーと安全保障だけじゃなくて医療費とか労働力とか、かなりの底上げになるんじゃないでしょうか。
そこで、以下の政策を提案しておきます。(財源試算も効果の見積もりもついていませんので、政策というよりコンセプト案ですね。あしからず。)
・全ての建築物の断熱性能を等級6(2022年設定)以上義務化
・窓などの建材の断熱性能を世界最高水準に義務化
・全ての既存住宅の断熱性能改善を等級5以上への改修の義務化
・既存住宅の改善は補助金と金利優遇措置

モノを群相で捉えた時に見えてくる「環境への期待値」と言う視点は、環境そのものの本質に迫れるという話でした。
dmc.
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