黒子の矜持と魅力的な個性:UIデザインの二つの哲学2024年01月12日 11:42

はじめに
ユーザーインターフェース(UI)デザインは、製品やサービスがユーザーとどのように対話するかを決めるものです。しかし、これにはいくつもの哲学が存在し、それぞれが異なるニーズと環境に適応しています。
今日は、日本の「黒子」スタイルのサービスと、海外の高級リゾートを例にとり、UIデザインの二つの異なるアプローチを探ってみましょう。

黒子スタイルのUIデザイン
日本の高級旅館では、控えめで気の利いたサービスを提供することに重点を置いています。これは歌舞伎など伝統芸能における「黒子」を感じさせるスタイルです。
このデザイン哲学の下では、インターフェースは直感的で、ユーザーの行動に自然と溶け込むように設計されています。ユーザーが意識することなく自然に製品やサービスを利用できることを意図したものになります。
また、多種多様で習熟度も高くないユーザーが想定される製品やサービスほど、容易に操作できることの重要性は高くなります。
この「黒子スタイル」が向いているものは、、
1)券売機や精算機などの公共機器
2)多機能な家電製品 など

高級リゾートスタイルのUIデザイン
一方、海外の高級リゾートでは、お客様との対等な関係と心地よいリレーションシップの構築に重点を置いています。旅館では客とスタッフの関係は主従関係を超えませんが、リゾートでは時に「友だち」のような関係性を築くこともあります。(オフタイムを顧客と一緒に楽しむ事が仕事の一部だったりしますよね)
UIデザインの文脈では、ユーザーとの対話を重視し、個性とエンゲージメントを促進するデザインを意味します。プライベートな使用を想定した製品では、ユーザーが製品やサービスとの相互作用を楽しむことが重要です。このアプローチでは、デザイン自体がユーザー体験の一部となり、信頼感や愛着を生み出します。
この「リゾートスタイル」が向いているものは、、
1)レジャー機器
2)道具類
2)福祉機器・身体に馴染む機器 など

まとめ
これらのデザイン哲学は、それぞれ異なるユーザー体験を生み出し、製品やサービスの成功に大きく寄与します。UIデザインは、単に機能を実現するだけでなく、ユーザーの日常生活に溶け込み、時にはそれを豊かにする役割を果たします。隠れた優雅さと顕著な個性、これらはUIデザインが追求すべき二つの重要な目標です。
あなたの製品はどちらが良いか意識するだけでも成果は大きく変わります。ぜひ参考にして見てください。

AI時代のデザイン革命:AI非搭載製品のためのユーザーインターフェース戦略2024年01月15日 10:51

はじめに
私たちの周囲には技術の粋を集めた製品が沢山あふれていまして、そこにAIの普及が進んでいます。スマートフォンから家電に至るまで、AIは日常生活のあらゆる角度から私たちをサポートしようとしています。
しかし、このAIが普通になって行く中でも、AI非搭載の機器は依然として多数ありますし、重要な場所で使われ続けています。
今日は、AI時代におけるユーザーインターフェース(UI)デザインの重要性と、AI非搭載製品におけるデザインのアプローチについて考えて見ましょう。

AIと非AI製品の間の橋渡し
AIが搭載されていない機器は、今後のトレンドの中でしばらくは「古くさい」と見なされやすいでしょう。特にいちはやくAIに慣れ親しんだユーザーにおいては、操作がまどろっこしく感じたり、目的の操作が出来ない事態もでてくるかもしれません。
しかし、だからこそ、それらの機器には、シンプルさ、信頼性、そしてユーザーの直感的な理解を促し快く使ってもらうことで、その評価を覆す大きなチャンスがあるとも言えます。AI時代のUIデザインは(高度な技術を必要としない製品においてはなおのこと)、ユーザーに快適で魅力的な体験を提供することに重点を置くべきなのです。

ユーザビリティとアクセシビリティ
最も重要なのは、どんな人がどのように使うかを理解し、それに基づいてデザインすることです。直感的な操作、明瞭な指示、触り心地の良い素材など、ユーザビリティはデザインの中心になります。
また、多様なユーザーが触れる機器にあっては、さらに容易に使用できるようアクセシビリティを高めることも不可欠です。

エモーショナルデザインの力
デザインは単に機能的でよいだけではなく、その上で感情に訴える何かを持たないといけません。色、形、テクスチャ、リアクションはユーザーが愛着を育む縁であり、メーカーのメッセージが「伝わる」ところです。製品に対する肯定的な感情は、長期的なユーザーエンゲージメントを促進します。

シンプルさと持続可能性
できるだけ複雑さを避け、ユーザーが直感的に理解できるシンプルなデザインが理想です。技術的な課題が未解決な場合(しばしば妥協点を探る事もありますね)であっても、その理想からバランスをとることが重要です。
そして、AI非搭載の「使いやすい機器」は、環境に優しい素材や製造方法を選ぶこととあわせて、持続可能な未来に貢献します。

まとめ
AI時代において、ユーザーインターフェースのデザインは、AIを搭載していない製品においても、非常に重要です。ユーザビリティ、アクセシビリティ、エモーショナルデザイン、そして持続可能性を重視することで、すべての製品が時代を超えて愛され、利用され続けることが可能です。
AI時代のデザイン革命は、テクノロジーの有無に関わらず、ユーザー中心のアプローチから始めてまいりましょう。

共感と普遍性:ユーザーインターフェースにおける姿勢の違い2024年01月17日 11:10

はじめに
今日は、ユーザーインターフェース(UI)デザインにおける2つの異なるアプローチ、すなわち「情・共感に基づくUI」と「普遍性・一貫性・公平性を重んじたUI」を比較していきましょう。

成功した製品のユーザーインターフェースを見て行きますと、理解のしやすさや共感の得やすさという意味において、大きくふたつの方向性があるようです。
ひとつは、情け・共感・思いやりといった個別の心情に、固有の特性に寄り添った形のUIです。それを使う人とその環境に深く入り込み、主観的に状況を想定して作り込むアプローチでつくられています。
これは、パーソナルな機器、専門機器、レジャー機器などにその傾向が顕著です。

もうひとつは普遍性・一貫性・公平性を重んじたUIです。ルールを明快にすることで、不特定多数の人に、様々な目的を達成するようにつくられています。
これは、公共機器やコンピューターのOSのような、生活の基盤となる機器やシステムに採用されます。

デジタルカメラとスマホのカメラ
デジカメラとカメラアプリを例にとりましょう。
デジタルカメラはシャッター、絞り、シャッタースピードなど、その機能専用のボタンやダイアルなどがあります。前者のUI(情け・共感・思いやりといった個別の心情に、固有の特性に寄り添った形のUI)ですね。高度な設定メニュー(ソフトウエア)を使う場合にも、ファンクションキーを割り当てるなどして、ユーザーの便宜を図っています。撮影に集中し、ハイクオリティでシャッターチャンスを逃さないUIを目指していることがわかります。
スマホのカメラアプリは、iOSまたはAndroidのルールに則って操作します。後者のUI(普遍性・一貫性・公平性を重んじたUI)ですね。操作画面はアプリにより異なりますが、スマホの他のアプリの使い方と大差はありません。ルールやガイドラインに沿ってつくられていることの恩恵です。そのかわり、即応性や利便性はやや劣ります。

ふたつのアプローチ
ふたつのUIの違いを並べて見ましょう。

【情・共感に基づくユーザーインターフェイス】
意図: 個々のニーズや環境に深く入り込み、直感的でパーソナルな体験を提供。
要望: ユーザーはより個別化された、自分だけの経験を求める。
特徴: 個々の機器や機能に特化し、直感的でパーソナライズされた操作性を提供。
用例: デジタルカメラや専門機器、レジャー機器など、特定の環境や目的に特化した機器。
利点: ユーザーの特定のニーズに深く応える、集中した操作体験を提供。

【普遍性・一貫性・公平性を重んじたユーザーインターフェイス】
意図: 一貫したルールやガイドラインに基づき、幅広いユーザーに適用可能な体験を提供。
要望: システムやアプリケーションの一般性とアクセス性を重視。
特徴: 一貫したルールに基づいて全てのユーザーにアクセスを提供、不特定多数のユーザーに適用可能。
用例: 公共機器、OSなどの生活の基盤となる機器やシステム。
利点: 幅広いユーザーに親しみやすく、様々な目的に適用可能。

まとめ
両方のアプローチにはそれぞれのメリットがあり、適用する状況やユーザーグループによって最適な選択が異なります。計画されている製品やサービスの性格に合わせて使い分けて行きましょう。

デザインの倫理:より良い未来のための創造的な責任2024年01月19日 12:01

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

はじめに
前回はユーザーインターフェイスデザインの二つのアプローチ、「情・共感に基づくユーザーインターフェイス」と「普遍性・一貫性・公平性を重んじたユーザーインターフェイス」についてお話しました。このふたつのアプローチの元となる「個と普遍」と言うテーマは、あらゆる人間集団における倫理観に深く関わることだそうです。
今日はデザインの世界で非常に重要なテーマ、この「倫理」に焦点を当ててみましょう。デザインは単なる美的表現以上のものであり、社会的、文化的、環境的な責任を伴うという、そういった自覚的な態度が求められる話です。

ユーザビリティとアクセシビリティ:使いやすさとアクセスの平等
デザインにおいて最初に考えるべきは、「ユーザビリティ」と「アクセシビリティ」です。これは多くの人(理想的には全ての人)が容易に使える、誰にとってもアクセスしやすいデザインを意味します。
ユニバーサルデザイン、インクルーシブデザインと呼ばれる考え方や、具体的には視覚障害を持つ人々のための読みやすいフォント、車いすユーザーが利用しやすい建築設計などですね。

文化的感受性:多様性の尊重
デザインは文化的な価値や感受性にも敏感です。世界は多様な文化で構成されており、デザインはその違いを尊重し、促進する役割を果たします。文化的剽窃(ある文化の要素を他の文化によって不適切に取り入れられること)や偏見を避け、異文化に敬意を払う事は社会全体に重要なことだと考えます。

環境倫理:持続可能なデザイン
いわゆるエコ、最近ではSDGsという目標に沿う、環境に優しいデザインは今日の必須条件です。リサイクル可能な素材の選択や、環境負荷の低減は、地球に対する責任あるデザインの一環です。私たちの「仕事」が地球に及ぼす影響を常に意識し、持続可能な未来に反する行為は社会悪と見なされつつあります。「社会悪とは過激すぎる」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このトレンドは逆らえないでしょう。

データプライバシーとセキュリティ:信頼の構築
ネットと繋がるサービスや製品においては、ユーザーのプライバシーとセキュリティは非常に重要です。信頼できるデザインは、ユーザーの情報を守り、安全な体験を提供します。データの扱いにおいて、倫理的な配慮と透明性を確保することは、デザイナーにとっても重要な責任と考えます。

まとめ
デザインの倫理について列挙しました。
これを「通り一遍まともに請け合うのは大変だ」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、デザインはもともと包括的な問題解決を志向するものです。今とりかかっている開発に突破口が欲しいとお考えでしたら、ぜひこの視点を取り入れて見て下さい。

「モノの終わり」2024年01月22日 17:48

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

大量処分の経験
最近、大量のモノを処分しました。
娘たち三人が独立し、二親を見送った自宅を縮小しようとして、家財を四分の一ほどにしたのです。その際に本当に沢山のモノを、買い取りに来てもらったり、リサイクルショップで売ったり、お金を払って処分したり、粗大ごみに出したり、メルカリで売ったり、地元の方にシェアしたり、家の前に置いて持って行ってもらったり、また普通にごみにしたりして処分しました。
この経験はとても刺激的で、途中まではいわゆる「断捨離」という感覚もあったのですが、だんだんと断捨離というよりは「ダムの水を全部抜く」という比喩がしっくりくるようになりました。
水が無くなったダムの底に現れるのが美しい里山なのか、不法投棄の残骸なのか、、。これまでの生活の在り方について改めて突きつけられるような、審判を受けるような神妙な気持ちになりました。モノを作って供給する側にいるものとして、とても感慨深くありがたかったです。

デザインに持続可能性や環境への配慮が求められる中、「モノの終わり」についてもう一度考えて見たいと思います。

精神的な空間の整理
「モノを捨てる」ということが物理的な空間だけでなく、精神的な空間も整理するプロセスだったと思います。大量の処分は、その量によって単に不要な物を処分すること以上の意味を持ち、私の生活とその価値観を反映しました。また、「介護の終わり」という大きなライフイベントの後でしたから、なおさら深い意味を感じたのかもしれません。

モノとの関係の再考
私が特別なのではなく、一般的にモノの処分を通して、これまでの生活の在り方を見直す機会になることは多いです。モノが私たちの生活にどのように影響を与え、私たちの記憶や感情にどのように結びついているか、これを再認識することができます。

「モノの終わり」の重要性
私が感じた「モノの終わり」というテーマは、デザインの終わり方の倫理と深く関わっています。私たちの周りにあるモノたちがどのようにして私たちの手を離れ、新たな形で生まれ変わるか、または消えていくかを考えることは、持続可能な生活を送る上で非常に重要です。

精神的な解放
「ダムの水を抜くような感じ」はその比喩通りの解放感も含んでいました。その結果見えてくるものが美しい里山であれ、不法投棄の残骸であれ、それは私自身の一部であり、新たな始まりへの一歩だと思います。

まとめ
私の個人的な経験でしたが、多くの人が直面するであろう課題と変化を当事者として経験できたと思います。モノとの関係を見直し、「モノの終わり」に意識を向けることは、私たち自身の持続可能な未来への歩みにとって不可欠だと再認識しました。この経験を通して、人とモノがともに過ごす時間への解像度を上げることができました。
「愛されるデザイン」を思う時、この視点はとても大切だと思います。
dmc.
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
「デザインの言葉」 by Fumiaki Kono is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.