環境としてのモノ:レイアウトの重要性2024年03月01日 16:01

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

生活環境でモノを見渡す
「モノの群相を環境として捉える」という考え方をもう少し具体的にかみ砕いて見たいと思います。
人とモノの関わり合いを、1対1ではなく、一人の人の生活空間から俯瞰して見ましょう。
まずモノですが、時計を見る、音楽を聞く、ポットを使う、リモコンを操作するなど、さまざまな形や距離感で人の生活に関与しています。それぞれのモノは、何らかの目的を持って選ばれたり受け継がれたりしてそこにあるものです。(その使用を通じて目的が変化することもありますが)一定の目的性を持つことが重要な特徴です。
また、モノには要不要があり、不要になった際には人はそれを捨てたり片付けたりすることができます。つまり、物の生殺与奪は人が握っており、これをモノの「負の絶対性」と呼ぶことができるでしょう。

環境の絶対性
これに対して、環境は与えられたもの、または与える側が意図したものとして捉えられます。本来の意味の環境には負の絶対性は有りません。環境の側に絶対性があり、私たちはただ甘受するしかありません。
しかし、私たちは生活環境を目的に応じて、または要不要によって選択し、変化させていこうとします。住む場所を選んだり、エアコンや家具などを換えたりしますが、これは「環境をモノとして扱う態度の表れ」と捉えることができます。

レイアウトの重要性
さて、モノには一つ一つに目的や必要性がありますが、群として見た時、配置によってその目的性が強化されることがあります。例えば、キッチンで道具が使いやすく並んでいる場合などがこれに当たります。モノが並ぶことでその目的性が相互に強化しあうのですね。
しかし、収納の中に収まっている場合は、モノの目的性も必要性も低くなります。また、飾り棚に飾られている場合は、目的性よりもその人の個性を表現する側面が強くなります。
モノを群として捉えた場合、レイアウト(どこに置くか)が非常に重要であることがわかります。「レイアウトによってその意味や重要性が変わる」というのは、ユーザーインターフェースデザインの基本です。そのUIの基本が、現実の生活空間でも同様の作用を持つというのは非常に興味深いことです。

UIの見方から環境を見渡す、、面白くなってきました。
続きはまた。

モノを群として捉える:環境デザインとしてのプロダクト2024年02月28日 11:44

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回は「答えのない問いがらしさを作る」というお話をしました。持ち続ける問い=問題意識が、その人の作るものに一定の個性を与えるということですね。

モノの「群相」
最近、私の問題意識が枝分かれし、新たな問いが芽生えました。
それは、モノを個々の存在としてではなく「群相」として捉えた場合、「環境としてのモノと人の幸せなあり方とは」という問いです。この視点は、空間デザインや都市計画の分野に属するかもしれません。
私がデザインしたものを含め、生活の中に溢れるモノたちを俯瞰して考えるとき、それらは単なる個別の存在ではなく、「群」として環境的な効果、役割を担うというのは自然な考えだと思います。
私はまだ完全には言語化できていないのですが、モノと人との関わりを考えていく中で浮かび上がってきた問いです。これは、最近経験した大量処分の影響を受けていると自覚しています。

環境をモノとしてデザインする
この問いは最近になって認識しましたが、私は過去に何度か環境をデザインすることに夢中になった事があります。その時は、プロダクトデザイナーとしての立場から少し離れたテーマであるため、興味深いと感じつつも、自分にとっての必然性をあまり感じていませんでした。
しかし、先に述べた問題意識が徐々に明確になってきたことで、これまで考えてきた環境のデザインについて、再度整理してみようと思っています。
環境デザインの初心者ではありますが、「モノとしての環境・環境としてのモノ」という視点で「人とモノとの関わり」の地続きの課題である「環境」を考えて見たいと思います。

「答えのない問い」がらしさをつくる2024年02月26日 17:16

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

問題意識と「らしさ」
先日、「答えのない問題を問い続ける問題意識がその人の作家性である」という話を聞きました。これは、私にとってとてもしっくりする表現です。私自身、「らしさ」というものを直接求める活動には答えがなく、目の前の課題に真摯に挑戦した時に自ずと現れてしまう内面性こそがその人の「らしさ」であり、作品であれば作家性だという風に感じてきたからです。

私自身は、以下のような問いの自覚があります。
1)モノと人との関わりは、どんなかたちが幸せなのだろうか。
2)大量生産・大量消費という社会の中で、「一つのモノを大事にしていくこと」と「沢山のモノを消費していくこと」の折り合いはつくのだろうか。
3)モノと人の関わりを時間軸で見た時、どのような「モノの終わり」もしくは「繰り返し」が良いのだろうか。
※3は1に含まれる問題意識ですが、1は人の生活に入って行くあり方、3は出て行くあり方についてです。

私(河野)自身の仕事を俯瞰しますと、UIとプロダクトを同時に見る事が出来たのは1の「モノと人との関わりにおいて、どんなかたちが幸せなのだろうか」という意識が常にあったからだ、と改めて感じました。
2については、ロングセラー志向に現れていると感じます。数年で切り替わるデザインにおいても、表面的な新しさとは別のレイヤーで、使用者の感じるものに一貫性を持たせたいと考える方です。
3については、具体的にこれだというものがまだありません。今後の自分に期待(?)しています。

意識的に「らしさ」をつくる
デザイナーの重要な仕事に意識的に「らしさ」を図ることがあります。メーカーやブランドのアイデンティティ−を創造したり、そのアイデンティティ−に沿ったデザインをするからですね。その場合にも「問い続けているテーマ」をしっかり捉えられれば大丈夫です。
もし、貴社のデザインにおいてうまく「らしさ」が表現出来ていないとお感じならば、「問い続けているテーマ」があるかを確認して見て下さい。もしそこに不安があるようでしたら、貴社が提案するものの背景にある問題意識を言語化してみてください。しっかり捉えられれば、「らしさ」への過剰な意識から離れる事が出来ます。これは朗報だと思います。

リセルバリューと再販市場 22024年02月23日 10:49

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

前回(1)の「リセルバリューを高めると良さそうだ、しかし、、」と言うお話の続きです。

早速ですが、リセルバリューを高める努力が、提供者側のデメリットになる要因をあげてみます。

【リセルバリューのデメリット】
1)購入の慎重化
リセルバリューの高い商品は、初期投資が大きい傾向がある。消費者はその価値が長期間にわたって維持されることを知っているため、購入する際により慎重になる。これは、消費者が購入を決定する前に、その商品が本当に必要か、または長期的に見て価値のある投資かどうかをよく考えるようになるため。
2)所有の価値再評価
リセルバリューが高い商品を所有することは、投資の側面もある。そのため、消費者は新たに商品を購入するよりも、既存の価値のある商品を大切に使用し、必要な場合にのみ新しい商品へと更新するという選択をしやすい。
3)再販市場の成長
リセルバリューの高い商品は再販市場での需要が高く、消費者は新品を購入する代わりに、中古品市場で同等の品質を持つ商品を探すことが増える。これは、新品市場の成長を抑制し、消費者が新商品の購入を絞る一因となる。
4)サステナビリティへの意識向上
環境への影響に対する意識の高まりは、消費者が不必要な新商品の購入を避け、長期的に使用できる商品に価値を見出す傾向を強化する。リセルバリューの高い商品は、その再利用や再販の可能性が高いため、サステナブルな消費選択として再販市場が魅力的になる。
5)経済的理由
経済的に合理的な消費者は、リセルバリューの高い商品を購入することで、将来的にその商品を売却し、投資した資金の一部を回収することができると考える。その結果、ここでも新商品の購入頻度が低下し再販市場を重視する傾向がある。
またこれらの現象は特に、高価な消費財や耐久性の高い商品の市場で顕著に見られるようです。

再販市場との付き合い:3つの選択肢
リセルバリューを高める努力は、長期的に見てもSDGs的な視点で見ても素晴らしいといえますが、同時に、新商品への需要を減少させる可能性があるという複雑な影響を市場にもたらし提供者側に多大な負担と我慢を強いるものでもあります。
再販市場とどう付き合うか。つくって売ってアフターサービスをする、の次の課題として重要です。
再販に対して講じる対処には、
1)再販禁止・不可
2)再販を管理下に置く
3)再販市場からのキャッシュフローを構築
の3つがありそうです。(厳格な販売管理については省略)
1の「再販禁止・不可」と2の「再販を管理下に置く」は、スポーツやコンサートのチケット売買では導入実績がありますね。また、ディーラーの認定中古車は2の一例でしょう。
3の「再販市場からのキャッシュフローを構築」の実例はなかなか思い当たりません。米国では図書館で貸し出されると作家さんにロイヤリティが支払われる仕組みがあるそうですが、中古市場でもそのような仕組みができるのが理想でしょう。それができれば「良いものを長く使う」ことがそのままSDGsでもあり、オリジナルを護る事にもなりますから。
法規や政策といった話になりやすい話題ですが、着目点として記憶に留めたいと思います。

リセルバリューと再販市場 12024年02月21日 10:41

デザインで飛躍を企むみなさまこんにちは^^

「中古市場に出さない」という応援
先日妻が書籍を処分する際、ブックオフや買い取りサイトを使わず「古紙回収」に出していました。分量があったのでなぜお金にしないのかと聞きますと、
「中古市場からは作家さんに一円も入らない。読みたくなったらまた新刊を買う。これが大好きな作家さんに書き続けてもらうためには一番必要なこと。」
ですって。なるほどと思いました。著作者保護の視点からみると、中古市場は全くの無法地帯ですものね。

そこでデザインにおけるリセルバリューを考える前に、リセルバリューについておさらいしてみます。

【リセルバリュー】
商品や資産が市場で再販売される際に持つ価値のこと。つまり、購入した時点の価格と比較して、将来的にその商品がどれだけの価値を保持または増加するかの見込みのこと。リセルバリューが高い商品は、購入後に手放す際にも元の価格に近い価格、あるいはそれ以上で売却できる可能性がある。

【リセルバリューが高くなりやすい製造方法、素材、仕組み】
1)限定生産
限定版や特別版など、生産数が限られている商品は希少性が高く、リセル市場での価値が上がりやすい。
2)高品質の素材
貴金属は素材としての価格相場がある。また、耐久性が高く、長持ちする素材で作られた商品は、時間が経っても価値が下がりにくく、リセルバリューが保持されやすい。
3)クラフトマンシップ
手作業による高い技術や熟練した職人による製造過程は、一般的な量産品とは異なる独自性と価値を生み出し、リセルバリューを高める。
4)ブランドの価値
一部の高級ブランドや著名なデザイナーの商品は、ブランド自体の知名度やステータスによりリセルバリューが高まることがある。
5)収集可能性
コレクターズアイテムやアート作品など、収集価値のある商品は、時間が経つにつれてその価値が上昇することがある。
6)維持・保管のしやすさ
劣化しにくい、または適切な保管によって状態を良好に保てる商品は、リセル時に高い価値を維持しやすい。

【消費者のメリット】
リセルバリューを持つ商品は、購入者にとって将来的に資金を回収する機会を提供するため、リセルバリューを重視する消費者にとって魅力的な選択肢となる。

【提供者のメリット】
1)ブランドの価値向上
リセルバリューが高い製品をデザインすることで、そのブランドの製品が質が高く、長持ちするという印象を消費者に与える。これはブランドイメージの向上に寄与し、新規顧客の獲得や既存顧客のロイヤリティ強化につながる。
2)持続可能性への貢献
リセルバリューを意識したデザインは、製品が長く使われることを促し、廃棄物の削減に貢献する。これは環境保護の観点からも重要であり、社会的責任を果たす企業としての評価を高める。
3)消費者の信頼獲得
製品が再販市場で価値を保持することは、購入時のリスクを軽減する。消費者はその製品が価値のある投資であると感じ、ブランドへの信頼を深めることができる。
4)購入動機
消費者は使用後も製品から経済的価値を回収できるという期待値は、購入の決定要因となり得る。
5)市場での競争力強化
リセルバリューの高い製品をデザインすることは、競合との差別化を図り、市場での競争力を高める手段となうる。消費者はより良い価値を提供する製品を選びたいと考えるため、そのような製品を提供するブランドに注目が集まる。

以上のように、リセルバリューを高める努力は、製品のデザインにおいて長期的な価値を提供することを目指し、消費者、ブランド、そして環境にとっても利益をもたらすように見えます。しかし、先週ご紹介した記事「IITTALA事件 「大量廃棄」は高コストの贅沢に」にあるように、イッタラの様なブランド価値が高くリセルバリューのある製品を多く揃えていると思われる企業にも大転換がありました。冒頭の中古市場が作家を苦しめる構図が思い出されます。もう少し考えて見ましょう。

次回(2)につづく
dmc.
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