「骸骨ビルの庭」観劇2011年06月22日 21:29

「骸骨ビルの庭」パンフレット
先週末、劇団文化座公演「骸骨ビルの庭」を観て参りました。
長く味わいの残る見ごたえのある公演でしたので、私の拙い感想とご報告をさせて頂きます。(以下、ネタバレにて失礼します。)


骸骨ビルの庭は大好きな作品です。
ですから、小説と舞台とでは全然別物である、というのは大前提として、あのヤギショーはん(主人公)の一人がたりの作品を、どのように仕立てるのか、という「作り方への興味」と、物語や演出それ自体を楽しめるのかという「没頭」と、観劇後に残る「何か」、、そのようなことを思いながら臨みました。

舞台
俳優座劇場は初めて入りましたが、入口の奥にアメリカンスタイルの、観客以外の客も入れる六本木らしいバーがあって、そこの古さと賑わいが前景としてピッタリだなぁ、いいなぁ、と思いつつ客席へつきました。
BGMが静かに流れているのですが、それが良く聴くと美空ひばりさんなどの昭和歌謡のアレンジになっています。これはあとで、劇への導入であったと気付くのですが、バーの存在とあわせて居心地の良い昭和っぽさに包まれました。

導入
劇は二幕です。一幕目に主人公「ヤギショーはん」の登場、ここで私は驚きました。ヤギショーはんが軽妙なんです。よくしゃべるんです。小説では聞き役の印象でしたが、舞台では物語を進める役どころなのでしょうね。
かつての子供たちは大人の役者が自身の小さな人形を操って表現されていました。
そして音楽と躍りという舞台らしい脚色で戦後の時代背景が語られました。
そうか、こうやって重くなってしまいそうなテーマを料理して行くのか、とにやりとしてしまいました。

登場人物
「ヤギショーはん」以外にも、ほとんどの登場人物のキャラクターは小説とは大小の差はありますが変っていました。(と、少なくとも私は感じました。)
これは近づけようとして近づかなかった、というより、劇中の世界観のためにそうなった、と感じました。しかしここは色々と意見の出る所かも知れません。
逆に、物語の中心人物である「阿部のパパちゃん」と「茂木のおっちゃん」の二人は、小説の中で感じた物を、舞台からも感じる事が出来ました。これは小説ファンとしてとても嬉しかったです。

物語
小説を読まれた方はみなさま、それぞれお好きなサイドストーリーがお有りのことと思いますが、ほとんどが省略され、孤児がいかに生きたか、「阿部のパパちゃん」と「茂木のおっちゃん」の二人の思いは何だったのか、という主題を中心に進みました。それでいいと思いました。
しかし、一つだけ、小説よりも大きな意味を帯びて「せっちゃん」が登場します。
小説を読まれた方でも「せっちゃん」と言われて、あぁあの人物か、と思い当たる方は少ないかも知れません。私自身、なぜ彼女のエピソードにあれほどの時間を割いたのか、最初は判りませんでした。
「せっちゃん」は、みなと食堂で、「ヤギショーはん」がキャベツを刻む時に来たり来なかったりするアルバイトの女の子で、小説にはない、「ヤギショーはん」とのシーンがあります。
これは幕の後にふり返った時、ああそうだったのかと膝を打ったのですが、現代の若者と孤児達との対比だったのだ、あのシーンによって孤児達がいかに幸福であったのかをしみじみと響かせていたのだ、、そう思いました。

クライマックス
物語の後半はとても淡々とクライマックスを迎えます。この淡々とした感じは私には小説に感じていたリズム感を想起させるものでした。
やはり、「阿部のパパちゃん」のノートのコピーが配られるシーンでは涙が堪えられなかったです。しかし舞台の中ではこのシーンはそんなに比重があるとは感じませんでした。そこが不思議です。
それよりもラストシーンです。子供の孤児達が「ヤギショーはん」にある言葉を伝えて幕となります。この言葉は、舞台ならではのカタルシスであり、同時に(せっちゃんとあわせて)原作ファンへのちょっとした謎解きのお土産だったのかもしれません。

それで、冒頭の私の思いに対してですが、、
「作り方への興味」は、とても刺激的で、時間が経ってからなるほどということもあり、見ごたえのある物でした。
「没頭」については、私自身は一幕の終わりから物語に入り込みました。これは小説とのギャップや演出への興味からだと思います。
観劇後の「何か」は、はじめは演出への興味、やがて庭そのもの(といいますかそれが象徴するもの)が残ったように思います。「庭」は進行中は舞台背景のひとつなんですが、全てが終わった後に、その意味あいが出てくると申しますか、、上手く言えません。スミマセン。。


ながながと評論家ぶって気が引けますけれど、、幾重にも折り重なった味わいを一言では表現出来ない私をお許し下さいませ。。

俳優座劇場にて、26日千秋楽。お薦めです。

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