「聖なる怪物」2013年01月24日 16:50

表紙をめくると、絶世の美少年と謳われた頃からの写真が8ページ。

美輪明宏 紫の履歴書
「紫の履歴書」は、歌手美輪明宏さんの33歳までの自伝で、出版社と内容を変えながら3回出版されました。これはその三回目の第二版(1993年)で、舞台「黒蜥蜴」を観、迫力にすっかり打ちのめされてその場で手にしたものです。
昨年末のNHK紅白歌合戦での好演で思い出し、本棚の奥から引っ張り出してきました。

美輪明宏 紫の履歴書
紅白で歌われた「よいとまけの誕生秘話」も書かれていて、ここからは二人の友人のエピソードから作られた事が判ります。(もっともご本人が後書き書かれたように、個人が特定出来ないようフィクションが入っているようですが)

美輪明宏 紫の履歴書
正直な所、このサインが欲しくて買いましたので、内容については印象が薄かったのですが、改めて読みますと生死を伴う凄まじいエピソードに溢れています。三島由紀夫の評した「聖なる怪物」という表現がまさにぴったりだと思いました。

テレビで見かける事が多いですが、やはり生の舞台でまた拝見したい、、そう思っています。

「ウルトラライトハイキング」2012年09月26日 23:33

「ウルトラライトハイキング」
土屋智哉著「ウルトラライトハイキング」です。
ウルトラライトハイキングとはその名の通り、超軽量装備でハイキングする米国発祥のスタイルです。
私はここ数年少しづつ「ウルトラライト」というコンセプトに惹かれていっておりますが、改めて俯瞰して見たくなって求めました。

考え方として、歴史、哲学、原則、日本の流儀が述べられた後、実践としての運ぶ、泊まる、歩く、着る、食べる、飲む、気遣いが紹介されています。

起源は1954年、67歳のエマ女史(というよりおばあちゃま)が軽装で3,500kmの山道(トレイル)を単独走破するという快挙です。エマおばあちゃん凄い!
「自然との濃密な関係を築く」という、自然への姿勢が哲学としてその後の発展を支え、新素材の積極的な活用によってモノも進化してきました。

デザイナーとしてはついモノの方へ気が奪われがちなのですが、それを裏付ける哲学があったればこそ、ということが大切に語られています。

米国発祥のスタイルですが、ミニマルでシンプルで自然との一体感って、なんて日本人的感覚なのでしょう。
装備山盛りのオートキャンプ(こちらの方が米国らしくもあります)もとっても面白いのですが、厳選されたウルトラライトなモノたちと自然を味わうのにも大いに惹かれます。

ところで、私にウルトラライトを紹介してくださったKさんが、本の中で日本の牽引者の一人として筆頭で紹介されているのには本当にびっくりしました!
Kさん、改めてありがとうございます。また色々教えてください!m(__)m

復刻版「横井庄一のサバイバル極遺書」2012年09月19日 23:12

山歩き仲間でもある三女と書店に行ったところ、こんな本を見つけてきました。

復刻版「横井庄一のサバイバル極意書」
復刻版「横井庄一のサバイバル極意書」。
正確にはBE-PAL10月号の付録です。横井さん「発見」の40周年(!)記念だそうで、28年前の連載をまとめた書籍の復刻版です。そのような連載も書籍も知りませんでした!
娘はすっかり気に入ったようで一気に読んでしまいました。

復刻版「横井庄一のサバイバル極意書」
イラストを交えて、グアムの森の中で敵から逃れ続け生き続けた生活が具体的に語られています。

インタビューを文字起ししたと思われる文章は読みやすく、生々しいと言うより軽妙な印象です。これ面白いですねぇ、ぐいぐいと引込まれてしまいました。

それにしても森で28年も過ごしてきたなんて凄いなぁ。
帰国から40年、「生き残る」ということがあらためて脚光を浴び、記念館を訪れる人が増えているそうです。

評判の力「ほんのまくらフェア」2012年09月05日 23:16

昨日書きました通り「名のないものとの出会い」を体験してきました。
今日は「ほんのまくらフェア」 です。

ほんのまくらフェア
書き出し(これをこのフェアでは「ほんのまくら」と名付けています)のみ印刷されたカバーが掛かり、中が見えないようになっている文庫が100冊。
この写真と棚がもう一つの小さなコーナーでのフェアですが、全てに特製のカバーがかけられ、全てに手書きの紹介文が添えられていて、かかる情熱を感じますね。

ーもう中身もみないで、自分の「まくら」に対する感覚で本を選ぶのって楽しいかもしれない(略)きっと不思議な本との出会いが待っているはずです。ー

そう書かれた通り、100冊全部のカバーに目を通して、書き出しから受ける物語への予感と語り口で印象に残るものを探しました。

・・うーん、、私には選べないかなぁ。。
本当に書き出しの数行、本によっては一文のみの「まくら」からでも伝わるものがあります。しかし、その先をもう少し読みたいかどうか以上の気持ちにはなりませんでした。
ただこれは作品と今日の私との相性と言うのが一番大きいのかも知れません。その意味で「純粋な出会い」は私にはありませんでした。

とは言えもう少し読んで見たい、というのもいくつかありましたので、添えられた紹介文にも目を通しました。

ほんのまくらフェア
紹介文。

この紹介文は想像以上の影響力ですね。ぱっと立ち上がるものをかなり左右します。そして何より「読んで見よう」という気持ちにさせます。

購入した本
そうして選んだ3冊です。

購入した本
カバーをとったところ。
ほぉ、見事にばらばらで、2冊は(失礼ながら)存じ上げない方です。

それぞれ数ページを読んだところでは、まくらで思い描いたイメージに近いもの、近い所と遠い所のあるもの、全然違ったものにきれいに別れました。

企画趣旨は「まくら」でしたが、私にとっては「紹介文フェア」と言えまして、紹介文の「評判の力」(もしくは私自身が気にしているのが実は評判の方であること)を改めて実感する経験となりました。

小説は好きですしそこそこ読める方だと思っていた私にとって、書き出しで選べないと言うのは自分の読み手の実力を見透かされたようでちょっとショックかも。

ちなみにネットの試し読み販売等を見ますと数ページから数十ページ読めるようになっています。こちらは物語りを実際に味わえるので判断しやすいですね。

「ほんのまくらフェア」 
新宿 紀伊国屋本店 9/16まで 

「絶望の国の幸福な若者たち」2012年08月09日 23:05

「絶望の国の幸福な若者たち」
若き社会学者、古市憲寿さんによる「絶望の国の幸福な若者たち」、とても興味深く読みました。13歳の娘も盗み読みしていたらしく「これ面白いね」と言っていました。

2010年の時点で20代の70.5%が現在の生活に満足していて、その満足度は他のどの世代よりも高く、過去の20代と比較しても高い、、。格差、貧困、ワーキングプアなどネガティブなワードだけが飛び交う現在の日本の中で、20代の生活における満足度は過去最高という奇妙な状況、これはいったいどういうことなのでしょうか。。

著者自身26歳で「若者」にカテゴライズされやすい年令であるためでしょうか、まずこの言葉の起源や現代での定義を学者らしいアプローチで紐解いて行きます。その中で現代の「若者」という世代で切る群像が既に錆びついたものであること、誰かが「若者」と呼ぶ時にはそれぞれの立場によって期待されるものがあることなどが明示されます。
そして、「ムラムラする若者」という現代のアウトラインを紹介して、若者目線で「日本」を見直していきます。

タイトルもさることながら、本文も冷めた皮肉の語り口がゆるく続くという、ある意味判りやすい若者然とした佇まいですが、その奥に何か光るものを感じ、最後まで興味はつきませんでした。


あちこちに「確かにそうかもなぁ」という所も多く、著者一押しの「ムラムラする若者」のくだりは、現在の「○○離れ」と言われているような消費行動を裏付ける心理としては最も判りやすい説明の一つだと思います。
更に幸福を「経済」と「承認」の二つの要素に分け、食べるものがあって誰かに承認されれば幸福であり、「貧困は未来」「承認は現在」の問題だから、娯楽に満ち気軽に承認が得られる今は「絶望の国の幸福な若者」であるとの断言には頷いてしまいました。

現状を近過去との比較で嘆く大人を冷笑しつつ、冷めた目線でその大人たちの残した社会現状をよしとする若者たちの未来に希望はあるのか、、。著者は控目ながら「なんだか悪いものではない気がしてくる」という一節を終盤に入れていました。

先日の「中国化する日本」とあわせて読むと、大きな流れに飲み込まれる大人の横で、その流れの中をヘラヘラとゆるく笑いながら楽しんでいる風に漂う若者が想起されます。
「一億総若者化の時代」という著者の見方からしますと、どうやら私もヘラヘラ笑っている側のようですね。(笑)
dmc.
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