周辺情報2011年01月20日 23:59

少し前の話題になりますが、電気自動車やハイプリッド車のモーターでの低速走行時に、歩行者に自動車の接近を知らせる方法として「電子音」を付加することになりました。

前後して、ホイールにつけて回転を利用して物理的に「カチャカチャならせる道具」も登場しました。実際に築地市場の運搬車に採用され、好評のようです。中学生の発明ということで話題にもなりました。

両者とも、目的は「存在の通報」で、もともとは存在しない音を「付加」していることは一緒です。
違いは電子音を電気的な制御でスピーカーから流すのと、物理的にホイールから鳴らすのとの、方法の違いです。
私は、これはとても大きな違いがあると思っています。

話は飛びますが、パソコンを操作している時に本体から少しでも異音がしたら何かしらの異常を感じます。それがギコギコといった周期的な異音なら、ファンかハードディスクの回転系を疑います。普段は気にしていない動作音ですが、脳は常に注意を払っているのだそうです。

カクテルパーティー効果という有名な現象がありますが、気持が会話に傾けば騒音の中でも会話ができるものですよね。脳の中では、集中した対象とそれ以外を分けて処理しているのだそうです。
そして、その傾注した対象以外の情報、つまり周辺の情報にも脳は注意を払っていて、特にその変化に敏感なのだそうです。パーティーのBGMが突然途切れたり、会議中にエアコンが止ったりした瞬間に気付くようなものですね。

また先程の異音のするパソコンですが、たとえ画面では「正常」と表示されていても、疑いがぬぐえない人も多い事でしょう。これはとても重要な心理だと思っています。
異音が続けばより疑いが濃くなります。発生源がハードディスクなら「正常」のうちにデータのバックアップをとるでしょう。
異音がなくなったとしても、短期的な安心とともに「そろそろ買い替えかな」といった予定をたてるかもしれません。
周辺情報の変化には、正常と異常の間の豊かな示唆が含まれているのです。

さて、自動車の音ですが、エンジン音からは様々な情報を「周辺情報」として感じています。エンジンに興味のない方であっても、運転中にエンジンの音が変化したら何かを感じるのです。経験の豊かな方でしたらどの様に対処すべきかとっさに判断出来るでしょう。

当り前の事ですが、エンジンは接近を知らせるためのものではありません。ですから、エンジン音の代わりが務まるのはモーター音またはインバーター音ですね。
「カチャカチャならせる道具」は、モーター音ではありませんが、モーターの回転との関係を感じさせるものです。「カチャカチャ」の鳴り具合にモーターを起源とする周辺情報を含んでいます。これはとても素晴らしいと思います。

デザインする時は、音に限らず、できるだけ豊かな周辺情報を含む方法にする、、とても大切な視点です。

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